事業開発の最初のステップ「アイデア出し」 良いアイデアを生み出すためには?

今後も企業が持続的成長を実現するために必要とされる事業開発。新しい分野への進出や、既存事業の変革によって成長を促す必要性は誰もが認めるものの、いざ実際に取りかかってみると、「何から始めてよいのかわからない」「アイデアが浮かばない」「利益を出せずスケールしない」といった壁にぶつかり、挫折するビジネスパーソンも多いのではないだろうか。

そうした課題を解決に導くため、『CAC Innovation Hub』では、事業開発の第一人者として数多くの企業をサポートし、『事業開発一気通貫 成功への3×3ステップ』などの著書も手がける秦充洋氏へのインタビューを実施。「元BCGコンサルが教える事業開発入門」と題して6回にわたり、秦氏の提言をお届けする。

第2回目のテーマは、事業開発を進める上で必要な最初のステップ「事業アイデア」。秦氏に、良いアイデアを生み出すためには何が必要なのか、そもそも良いアイデアとは何なのかを聞いた。

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#4 (近日公開)
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秦充洋(はた・みつひろ)
秦充洋(はた・みつひろ)
株式会社BDスプリントパートナーズ 代表取締役CEO
ボストンコンサルティンググループ(BCG)にて既存事業の見直し、新規事業、人事組織戦略、M&Aなどプロジェクトマネジャーとして多岐にわたるプロジェクトを指揮する。医療従事者向け情報サービスを提供する株式会社ケアネットを共同で創業し、2007年に東証マザーズ上場(現在は東証プライム市場)。2017年に人材育成を専門とする株式会社BDスプリントパートナーズを設立。事業開発分野における第一人者として、体系化されたノウハウに基づいた実践的なアプローチで多くの企業や組織、起業家を支援している。一橋大学大学院MBAコース(HUB)客員教授、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師を務める。

事業の芽をつんでしまう「アイデアキラー」とは

――事業コンセプトを作るためにはアイデア出しが必須ですが、「良いアイデアが思い浮かばない」という悩みを抱えている人は多いと思います。アイデアが豊富に湧いてくる人たちは、どのようにして生み出しているのでしょうか。

 アイデアの生み出し方は人によってさまざまですが、前提条件として、常日頃からインプットをすることが必要です。例えば世の中のトレンドや最新の技術などを知識として持っていれば、周囲の人が非効率な仕事をしていたり、課題に直面したりしているのを目にしたときに、「もっとこういうやり方をすれば効率的なのに」、「あれを使えば解決できる」などと、パッと思い浮かぶかもしれません。

これこそが新規事業のヒントになるわけです。また、事業開発や課題解決につながる問題意識を持つことも重要です。いくら知識があっても、その意識がなければ、前述したような場面に遭遇しても、「大変だな」で終わってしまいます。

――なるほど。インプットをすることと、常に問題意識を持つことが大切なんですね。

 そうはいっても、会社勤務をしていると、いつまでに新規事業を考えないといけないとか、上司に何か提案しないといけないとか、時間が限られている場合もありますよね。その場合は、日常生活でヒントになる出来事との遭遇を待ってもいられません。そんなときには、例えば「デザイン思考」など、ビジネスの長い歴史の中で培われてきた、コンセプトづくりに役立ついろいろなフレームワークがあるので、それらを活用するのもとても有効だと思います。

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――秦様が事業開発支援をする際、最初に、1人最低50個のアイデア出しをしてもらうと伺いました。ビジネスパーソンの皆さんは、50個とおっしゃるとどんな反応をするんですか。

 まず最初にギョッとしますね(笑)。アイデアを1つ出すのも大変なのに、50個なんてとんでもないと皆さんおっしゃいます。

しかし、よくよく聞くと、本当にアイデアが出ないわけではないんです。日々仕事をされている方々で、アイデアが1つも出ないなんてありえないと私は思っています。皆さん、アイデアが出ないのではなく、出てくる端から自分でつぶしてしまっているんです。せっかく思いついているのに、難しそうだとか、うちの会社でこんなものは通らないだろうとか、ダメな理由を自分で見つけてつぶしているケースをよく目にします。

そうした思考になってしまう一つの背景に、組織によくいる「アイデアキラー」の存在があります。アイデアキラーというのは、アイデア出しの段階でマイナスの発言ばかりして、事業の芽をつんでしまう人たちのことです。

アイデア出しの段階なのに「他はどこもやっていないじゃないか」「うちの強みは活かせるのか」と、できない理由や質問を連発する人がいますが、特に経営層やマネジメント層がそれをしてしまうと、アイデアが生まれづらい組織になってしまいます。過去にアイデアキラーに詰められたり、他の人のアイデアがダメ出しされているところを見たりしたことで、自分で先回りしてせっかくのアイデアをつぶしてしまうんです。

――アイデアキラーの発言は、見方を変えると懸念点を確認しているとも受け取れるのではないでしょうか。

 もちろん、気になるところをそのままにしないことは必要です。しかし、アイデア出しの段階でそれをやってはいけません。事業開発は手順に沿って進めることが大切です。アイデア出しのときはまず発散させる。思い付きでも何でもいいのでどんどん出す、そしてその後収束させる時間を別途取って出てきたものを評価する、このメリハリが大事なんです。頭から「こんなの実現できるか」と余計なことを言ってしまうと、誰もアイデアを出すことができなくなってしまいます。

多数のアイデアのスクリーニング方法としてまず考えるのは……

――どういうものが良いアイデアで、どういうものが悪いアイデアなのか、考え方の基準はあるのですか。

 最終的には儲けることができるアイデアが「良いアイデア」と言えると思いますが、アイデア出しのタイミングだと、明確な基準を設けるのは難しいですね。よく言われることですが、面白い革新的なアイデアは、最初は荒唐無稽に見えることが多いんです。

例えば、YouTubeが最初に出てきたときも、「素人があげた動画を誰が見るんだ」という声や、「そもそも動画をアップするなんてそんな面倒なことをわざわざする奇特な人がどこにいるんだ」という意見がほとんどでした。

電気自動車のテスラも同じです。テスラはバッテリーのコストを下げるために、普通の電気製品に使われる低コストのバッテリーを7,000個も束ねて使ったんです。それに対して、家電用のバッテリーを使った車がちゃんと走るわけがない、安全性は大丈夫なのかという意見を、私もたくさん聞きました。大ヒットした商品やサービスが、最初はめちゃくちゃに言われていたという話は、山ほどあります。

事業開発の最初のステップ「アイデア出し」 良いアイデアを生み出すためには?

――そうすると、アイデア出しの段階で出てきた多数のアイデアを見て、どれを却下してどれを進めていくのか、どのようにスクリーニングするのが良いのでしょうか。

 実現できるかどうかを考える前に、私はまず「インパクト」を見ます。実現するためにいろいろなハードルがあるとしても、いったんそれは脇に置いておいて、仮に実現できたとしたら、ユーザーはどう受け止めるか。世の中にどう広がるか。事業として社会にインパクトを与えるかどうかを重視します。これが最初のスクリーニングですね。

実現すればインパクトがあるぞと思えたら、その次のステップとして、それを実現するにはどうしたらいいのか、そもそも実現できるのかを考えます。面白いアイデアは、どれも実現するのは簡単ではありません。先に実現性を考えてしまうと、せっかく面白いものでも、大変そうだからやめておこうとなってしまいます。

――まずはがんばるだけのインパクト、メリットがあるかを考えるんですね。

 仮に実現できるとしても、インパクトが大したことないものは、そもそもやる意味がありませんよね。逆に実現したときのインパクト、メリットが大きいと判断できるならば、何とか知恵を絞って、実現できる方法を必死に考えるべきです。

良いアイデアを見極める方法として私が挙げるのは、一見、荒唐無稽で実現が難しそうなもの、実現したときのインパクトが大きいもの。そして最後に忘れてはいけないのが、当事者たちが情熱を傾けてがんばれるアイデアかどうか、という点です。お伝えしたように、事業を形にするのは簡単ではありません。時間を使って、人やお金を集めて、しかも事業化した後も継続して努力を続けなければいけません。チームの人たちがあきらめてしまったり、そこまでがんばらなくてもいいやと思ったりしたら終わりです。

――良いアイデアと言えるかどうかは、自分たち次第という側面もあるんですね。

 そうですね。ただし、多くのアイデアは、最初から情熱を傾けることができるようなものではないと思います。始めは単なる思い付きだったものが、がんばって磨いていくうちに、ちょっとずつ変化して、だんだんと魅力的になっていくものです。ターゲット顧客にヒアリングして生の声を聞くことで、本当に困っている人の助けにつながると実感したり、腕利きのエンジニアがコンセプトに共感して手弁当で手伝ってくれて仲間が増えていったり……そうしたことの積み重ねで、だんだん「いけるぞ」という勇気が湧いてくるんです。

最初から完璧なアイデアなんて、そうそうあるものではありません。事業開発にチャレンジする際は、こんなものできるわけないと小さく考えないで、まずはたくさんアイデアを出すこと。そして「志を育てる」という気持ちで、情熱を持ってがんばれる事業に磨き上げていってほしいなと思います。

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