商品・サービスに適したマネタイズモデルの見つけ方と設計のポイント

今後も企業が持続的成長を実現するために必要とされる事業開発。新しい分野への進出や、既存事業の変革によって成長を促す必要性は誰もが認めるものの、いざ実際に取りかかってみると、「何から始めてよいのかわからない」「アイデアが浮かばない」「利益を出せずスケールしない」といった壁にぶつかり、挫折するビジネスパーソンも多いのではないだろうか。

そうした課題を解決に導くため、『CAC Innovation Hub』では、事業開発の第一人者として数多くの企業をサポートし、『事業開発一気通貫 成功への3×3ステップ』などの著書も手がける秦充洋氏へのインタビューを実施。「元BCGコンサルが教える事業開発入門」と題して6回にわたり、秦氏の提言をお届けする。

第3回目は、「新規事業でマネタイズモデルをどのようにして作るのか」をテーマに、事業に合ったマネタイズモデルを見つける方法、マネタイズモデルを設計する上で大切なポイントなどについて解説する。

【特集・記事一覧】
#1 企業の成長を支える事業開発、成功に向けてトップに求められるものとは
#2 事業開発の最初のステップ「アイデア出し」 良いアイデアを生み出すためには?
#3 商品・サービスに適したマネタイズモデルの見つけ方と設計のポイント(本記事)
#4 (近日公開)
#5 (近日公開)
#6 (近日公開)

秦充洋(はた・みつひろ)
秦充洋(はた・みつひろ)
株式会社BDスプリントパートナーズ 代表取締役CEO
ボストンコンサルティンググループ(BCG)にて既存事業の見直し、新規事業、人事組織戦略、M&Aなどプロジェクトマネジャーとして多岐にわたるプロジェクトを指揮する。医療従事者向け情報サービスを提供する株式会社ケアネットを共同で創業し、2007年に東証マザーズ上場(現在は東証プライム市場)。2017年に人材育成を専門とする株式会社BDスプリントパートナーズを設立。事業開発分野における第一人者として、体系化されたノウハウに基づいた実践的なアプローチで多くの企業や組織、起業家を支援している。一橋大学大学院MBAコース(HUB)客員教授、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師を務める。
2024年8月に新著『図解でゼロからわかる! 成功する事業計画書のつくり方』を上梓

マネタイズの多様化とその影響を受けた顧客の変化

――「新規事業でどうやったら儲けられるのかわからない」という悩みをよく耳にします。マネタイズモデルを作るために必要な考え方について教えていただけますか。

 マネタイズモデルは、事業の収益性を決める根幹となるものです。マネタイズモデルを作るためには、誰から、どんな名目で、どうやってお金をもらうのかを考えなければなりません。いろいろなやり方がありますが、大切なのは、「このやり方で本当にお客様はお金を払ってくれるのだろうか?」という視点です。

例えば、誰も使ったことがない新商品の場合、いきなりお金を出してユーザーが使ってくれるかというと、なかなかそうはいかないですよね。世の中に出てきたばかりのプロダクトで、ユーザーが「これ本当に大丈夫なのかな?」という段階では、まずお試しで無料で使ってもらうなどの工夫が必要です。

「フリーミアム」と呼ばれるマネタイズモデルの一つですが、最初はタダで使ってもらうことで、ユーザー層、顧客基盤を広げ、一歩踏み込んださらなるサービスを使いたい場合は有償という形で利益を確保するやり方です。儲けを出す出さないの前に、まずは顧客の数を増やすというのは、マーケティングや事業設計の重要な考え方ですね。

――最初はマイナスが出ても顧客を増やしていくというやり方ですね。

 そうですね。売上を分解すると、「顧客数×客単価」になります。ざっくりとこの単純な掛け算で、最初は商売としてやっていけるかどうかを見ていきます。先ほど言ったような形でまず顧客の数を増やすことができたら、次は客単価を上げないといけません。先ほどのフリーミアムの例でいくと、せっかく使ってもらえるようになってユーザー数が増えたけれど、無料のお試し期間で終わり、となってしまったら事業は成り立ちません。これはいいね、役に立つねと感じてもらえるように最初はとことん使ってもらって、自分にとって必要だとユーザーが認識する適切なタイミングで、課金を上手に促すことが必要です。

一回でどんと課金してもらうやり方もあれば、サブスクリプションや、料金プランによって使える機能を細かく分けるやり方など、課金の仕方もさまざまです。

フリーミアムの事例

ビジネスツール『ChatWork』をはじめとしたチャットツールや、『Zoom』をはじめとしたビデオ通話ツールなど、無料では制限付きで利用でき、課金することでその制限が緩和、または解除されるサービスが多数登場している
ゲームアプリ通常プレイは無料、ゲーム内アイテムなどの購入は有料、というサービス形態で、カードゲームやパズルゲーム、RPGなどさまざまなジャンルのゲームが展開されている
漫画アプリ毎日決められたページ数や話数は無料で読むことができ、それ以上読みたい場合は課金が必要、というサービスでユーザー数を増やしている

――確かにいろいろな課金のパターンがありますね。顧客が何にお金を支払うのか、時代による変化を感じることはありますか?

 当然ですが、良いもの、便利なものが出てきて、いったん世の中が慣れてしまうと、元には戻りづらいですよね。例えばスマホのゲームなどは、無料でユーザーを集めるマネタイズモデルの典型例です。タダで使ってみて、面白かったらここから先はお金をもらいますよ、ここまでで良いのならお金は必要ありません、というあの形は、ユーザーにとってとても使いやすく、入りこみやすいモデルです。

この形が世の中に広がると、ユーザーは他のものについても、最初からお金を支払うことに抵抗を感じるようになります。どのタイミングで何にお金を出すのか、の基準が変化していくのです。以前は、ゲームをやるときは最初にお金を支払うのが当たり前だったかもしれませんが、今は「なんで面白いかどうかがわからないのに、先にお金を払わないといけないの?」と思う人が増えたのではないでしょうか。

マネタイズモデルとはちょっと異なりますが、とある家電メーカーの方に伺ったところ、最近の消費者は、マニュアルをほとんど読まなくなっているそうです。なぜかというと、iPhoneなどのデバイス、それからアプリなどは、ほとんどが説明書を読まなくても直感的に使えるようになっているからです。いろいろな機能を使いこなしたいと思った場合でも、自分でどんどん手を動かしながら探っていける、そうした形の製品・サービスにみんな慣れてしまったんですよ。

その世界を知ってしまうと、今さらややこしいマニュアルを読んでくださいなんてやっていたら、ユーザーはついてきてくれません。要求水準が上がったユーザーに対応しようと思ったら、従来の当たり前をどんどん変更していかないと難しくなっていきます。マネタイズモデルも、同じことが言えると思います。

自社の商品・サービスに適したマネタイズモデルは?

――自分たちの業界に限らず、今起きている変化を知っておくことが大事になってきますね。

 テクノロジーの進化も影響しますよね。例えばサブスクリプションですが、あれは言ってみれば古くからある雑誌の定期購読です。昔ながらのマネタイズモデルが、テクノロジーの進化によってここまで拡大した、と言えると思います。

サブスクリプションって、今のようなテクノロジーがない時代は、振り込み用紙を送って集金するなど相当面倒くさかったはずです。機器が絡む場合はモノを渡して後払いという形になりますからそのまま返してくれないリスクもあります。今のネットワーク環境や充実した顧客管理システムなどができたからこそ、昔ながらの課金パターンでありながら効率的に実行できるようになり、今新たに復活したと言えるでしょう。

古くからある多くのマネタイズモデルも、周囲の環境変化などによって、今の時代にぴったりの新しい価値を持つかもしれません。また、他の業種で成功しているマネタイズモデルを違う業種に横展開するだけでも、新しい事業になることがあります。例えばサブスクリプションはいろいろなものに広がっていますが、意外とまだ見つかっていない、サブスクリプションに適したサービスがあるかもしれないですよね。マネタイズモデルのいろいろな形を知ることは、事業そのもののアイデア出しも含めて多方面に役立つと思います。

商品・サービスに適したマネタイズモデルの見つけ方と設計のポイント

――なるほど、マネタイズモデル1つを取っても奥が深いですね。

 事業で儲けるというと、とかく、一つひとつにいくらの値段を付けるかということに意識が向きがちです。しかしそれだけではなく、どのようにお金を集めるか、お金の取り方も重要で、そこをしっかりと設計することが必要です。ライフタイムバリュー(顧客生涯価値/自社との関係開始から終了までに、その顧客からどれくらいの利益を得られるかという指標)が高いマネタイズモデルを作ることが、事業開発でも大切になってきます。

――自社の商品・サービスはどのようなマネタイズモデルが適しているのか、どのようにすれば見つけることができるのでしょうか。

 いろいろあるマネタイズモデルをうまく活用するために、まずはアイデア出し(連載第2回「事業開発の最初のステップ「アイデア出し」 良いアイデアを生み出すためには?」)と同じくインプットが必要です。何もゼロからものすごい発明をする必要はなく、マネタイズの世界にはすでに実証済みのマネタイズモデルがたくさんあります。それらをうまくカスタマイズすればいいんです。世界のあらゆる場所、業種で、どんな商品・サービスがどんなマネタイズモデルでビジネスをしているのか、知るだけでも事業開発に大きなプラスになるはずです。

その上で、数あるマネタイズモデルの中から、どれが合っているのか、適正な価格はどのぐらいか。自分たちの事業にとっての最適解を見つけられるかどうかは、結局、自分たちが顧客に提供している価値を理解できているかどうかに起因します。自分たちの商品やサービスを使うと、お客様はどのようなメリットを得られるのか、どんな価値や成果を手にすることができるのか、顧客の立場に立って考えることが必要です。

マネタイズモデルの話ではありますが、実はその前の事業コンセプトを作る段階で、お客様への提供価値をしっかりと描けていないと、ここを設計することができません。もしマネタイズモデルを作る段階で何に対してお金をいただくのか自信を持てない場合は、事業コンセプトの中身を見直して、提供価値を再確認するのも良いでしょう。価値あるものを提供できているかどうか、結局は、そこが儲ける事業を作れるかどうかの分かれ道です。

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#1 企業の成長を支える事業開発、成功に向けてトップに求められるものとは
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