新規事業立ち上げの成功率を上げる8つのプロセスとポイント
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新規事業の立ち上げは、どのようなプロセスで進めれば良いのでしょうか。起業家によって細かい手順は変わりますが、特に市場調査や仮説検証の手順を誤ると、ビジネスの成功率が下がることもあります。

本記事では、新規事業立ち上げの手順を8つに分けて、各プロセスの概要や注意点をまとめました。活用できるフレームワークなど、成功率を上げるためのポイントも併せて紹介します。

目次

  1. 新規事業立ち上げの成功率はプロセスで変わる
  2. 新規事業を立ち上げる8つのプロセス
  3. 新規事業立ち上げを成功させるポイント
  4. 新規事業立ち上げでは全体のプロセスを意識しよう

新規事業立ち上げの成功率はプロセスで変わる

新規事業が成功するかどうかは、立ち上げのプロセスで変わる可能性があります。

例えば、既存事業の強みを活かしてビジネスを始める場合であっても、事前の市場調査や競合分析が必須です。外部環境は常に変化するため、最新のデータをもとに計画を立てて、十分な仮説検証まで行う必要があります。

中小企業庁ウェブサイト(※)によると、日本の企業生存率は1年後で95.3%、5年後には81.7%になります。倒産した全ての企業がプロセスを誤ったわけではありませんが、中には最初になすべきデータ収集が不足していたことで、参入すべき市場を読み違えたり、競合との争いに敗れたりしたケースもあるでしょう。

(※)「中小企業のライフサイクル」(中小企業庁)」を加工して作成

実際に新規事業が始まると、データ収集や分析のプロセスに立ち戻ることは難しくなります。事業推進に専念できる環境を整えるために、新規事業の立ち上げ前には全体のプロセスを確認しておきましょう。

新規事業を立ち上げる8つのプロセス

新規事業を立ち上げるプロセスは、以下の8つに分けられます。

<新規事業立ち上げのプロセス>
1.経営理念・ビジョン・ミッションを明確にする
2.自社と他社の強みを比較する
3.顧客の課題に目を向けてアイデアを出す
4.市場分析・競合分析をする
5.事業ドメインや事業モデルを絞り込む
6.テストマーケティングをする
7.事業計画を立てる
8.検証結果をもとにビジネスプランを改善する

上記1~4は机上でアイデアを考える段階、5~6は仮説・検証の段階、7以降はアイデアを形にする段階にあたります。ここからは各プロセスに分けて、必要な作業や注意点などを解説します。

1.経営理念・ビジョン・ミッションを明確にする

経営理念やビジョン、ミッションは、企業活動の軸になるものです。社会的な存在意義を明確にしたり、メンバーの意思を統一できたりする効果もあるので、まずはこの3つを明確に設定しましょう。

経営理念・ビジョン・ミッションは似ていますが、以下のような違いがあると言われています。

経営理念:企業が大切にしている考え方や価値観を言語化したもの
ビジョン:経営理念に基づいて、具体的な行動にまで落とし込んだ目標のこと
ミッション:存在意義にあたる、社会での役割や活動内容を規定したもの

同じような事業に取り組む場合であっても、企業によって経営理念やビジョン、ミッションは異なります。新規事業を通じて達成したいことや、社会にもたらす影響などを踏まえて、まずは経営理念・ビジョン・ミッションから考えてみましょう。

2.自社と他社の強みを比較する

新規事業を成功させるには、強みのある領域で勝負をするほうが有利なため、次の3つを整理して、活用しさらに磨き上げたい強みを明確にしましょう。

  • 自社しかもっていない強み
  • 他社より優れている強み
  • 自社と他社がもっている強み

自社しかもっていない強みや、他社より優れている強みを活かすと、競合を出し抜いて成功できる可能性が高まります。自社と他社がもっている強みについては、両者の力関係や、強みを細かく分解した上で得意・不得意があるかどうかなどを比較してみてください。

3.顧客の課題に目を向けてアイデアを出す

活用しさらに磨き上げたい強みが明確になったら、次は具体的なアイデアに落とし込みます。斬新なアイデアをゼロから構築することは難しいため、まずは顧客が抱えている課題や悩みに目を向けましょう。

新規事業のアイデアは、「誰の」「どんな悩みを解決したいのか」を糸口にすると浮かびやすくなります。すでに一定数の顧客がいる場合は、アンケートやヒアリングをする方法も良いでしょう。

複数人でディスカッションをする方法も有効です。この段階で1つの候補に絞る必要はないため、収益性などの分析はいったん後回しにして、様々なアイデアを出してみてください。

4.市場分析・競合分析をする

新規事業の候補ができたら、市場分析や競合分析を通して実現性を判断します。市場は常に変化するため、このプロセスでは現時点での外部環境に加えて、将来の市場状況も予測することが重要です。

新規事業の分析では、後述で紹介するフレームワークを活用できます。単にデータを収集するだけではなく、実際に事業を回すことを想定しながら、自分たちの独自の視点だけでなく第三者の視点も加えて入念に分析しましょう。

5.事業ドメインや事業モデルを絞り込む

次は分析の結果をもとに、事業ドメインや事業モデルを絞り込みます。

事業ドメインとは、取り組む事業の領域や分野、範囲などを明確にしたものです。事業ドメインが決まったら、「誰に」「どのような商品・サービスを」「どのように提供するか」まで深堀りし、収益を生み出す仕組み(事業モデル)を考えましょう。

事業ドメインや事業モデルの絞り込みでは、市場の特性や優位性、実現性、投資の規模、社会への影響などを加味する必要があります。これらのポイントを意識しながら、新規事業のアイデアを数案程度に絞ってみてください。

6.テストマーケティングをする

テストマーケティングのプロセスでは、一部の顧客に試作モデル(プロトタイプ)を提供してデータを集めます。顧客の口コミや評価は重要な判断材料となるため、必要に応じてインタビューやアンケートを実施しましょう。

事業内容にもよりますが、通常は半年~1年ほど効果検証を繰り返しながら、最終的に残す事業案を判断します。

7.事業計画を立てる

次に、絞り込んだ事業案のコンセプトシートを作成します。コンセプトシートとは、企画意図やターゲット層、提供方法、予算計画、スケジュールなどをまとめて、事業のコンセプトを明確にするためのシートです。

コンセプトシートの作成後には、その内容をもとに収支計画や行動計画を立てましょう。関わるメンバーで議論を重ねながら、これらの計画を練り上げていき、新規事業の事業計画を策定します。

8.検証結果をもとにビジネスプランを改善する

十分なリソースがあっても、新規事業をいきなり成功させることは困難です。特にイノベーションを伴う事業は不確定要素が多いため、リスクが顕在化したら都度対処する必要があります。

そのため、新規事業を走らせた後にも評価・改善のプロセスは必須です。定期的に実績を検証し、そのデータをもとに事業計画を見直しましょう。

新規事業立ち上げを成功させるポイント

新規事業立ち上げを成功させるには、全体のプロセスを意識するのに加えて、各プロセスを深堀りすることも重要です。どのような方法があるのか、以下では新規事業を成功に導くポイントを紹介します。

フレームワークを活用する

フレームワークとは、事業戦略の立案や課題解決、意思決定などに役立つ枠組みです。アイデアや思考を整理するために活用されることが多く、新規事業立ち上げのプロセスでも役立ちます。

新たな発想につながる場合もあるので、効果が見込めるものは積極的に活用しましょう。

・新規事業立ち上げで使える思考フレームワーク

代表的なフレームワークとしては、SWOT分析やPEST分析が挙げられます。これらのフレームワークは、自社が置かれている状況やポジションを複数の要素に分けて、内部環境・外部環境を分析するために活用します。

<SWOT分析の要素>
Strength:自社や製品の強み
Weakness:自社や製品の弱み
Opportunity:顧客の変化や流行などの機会
Threat:競合他社などの脅威

<PEST分析の要素>
Politics:法律や税制などの政治的要因
Economy:為替動向や景気回復などの経済的要因
Society:少子高齢化や流行などの社会的要因
Technology:イノベーションや特許などの技術的要因

他にもKJ法やSCAMPER法、アンゾフマトリクスなどのフレームワークがあり、分析したい内容や事業の状態によって適したものは異なります。様々なフレームワークに目を通し、新規事業立ち上げに役立つものを活用してみてください。

事業撤退の基準を決めておく

新規事業には不確定要素が多いため、必ずしも成功するとは限りません。運営コストが負担になることも想定して、あらかじめ事業撤退の基準を決めることも重要です。

一般的に、事業撤退のタイミングは複数の指標やリスクを加味して判断されます。例としては、内部収益率(IRR)が一定以下になったときや、投資効率が下がったタイミング、売上高が予想値を大きく下回った場合などがあります。

自社が重視している指標やリスクを整理して、明確な撤退基準を決めておきましょう。

返還不要な資金調達を検討する

新規事業立ち上げのプロセスでは、資金調達に力を入れることも重要です。中でも返済不要な補助金・助成金は、経営を圧迫するリスクが抑えられるので、積極的な活用を考えましょう。

新規事業に活用できるものとしては、ITツールの導入コストを補助する「IT導入補助金」が挙げられます。同制度では特定の設備やシステムなどを導入すると、最大で450万円の補助を受けられます。

参考:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023

また、地域活性化や地方での起業を対象にした制度もあります。例えば、中小機構が実施する「地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)」では、創業や販路開拓などに取り組む事業者を対象に、ファンドからの運用益が助成されています。

参考:中小機構「地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)

自治体が実施している制度もあるので、新規事業を立ち上げる地域の情報を調べてみましょう。

新規事業立ち上げでは全体のプロセスを意識しよう

新規事業は不確定要素が多いからこそ、正しいプロセスでリスクに対処することが重要です。丁寧に課題を洗い出し、一つずつ対処していけば、リスクを抑えながら立ち上げられます。

具体的なアクションを起こす前に、まずは全体のプロセスを整理することから始めましょう。