事業開発 特別対談

独立系SIerとして知られる株式会社シーエーシー(以下、CAC)は、2030年に向けた中期の成長戦略として新規事業の創出を柱の1つに掲げている。その中心を担うのが、2022年に新設されたR&D本部と新規事業開発本部だ。

技術開発を担うR&D本部と、培った技術をベースにビジネスを生み出していく新規事業開発本部。成長のカギを握る両チームのトップ、鈴木貴博と中西英介による対談を通して、CACの新たな挑戦を読み解く。

※この取材は、アイデア創発とワイガヤできることを目指して昭和40年代くらいにタイムスリップしたと錯覚してしまうようなコンセプトで作られた新規事業開発本部の執務室にて実施した

中西英介(なかにし・えいすけ)
取締役兼新規事業開発本部長
1999年、株式会社シーエーシー入社。入社から大手クライアントを担当。アカウントマネジャーとして15年以上の経験を持ち営業部門の責任者、執行役員を経て2022年3月に取締役兼新規事業開発本部長に就任。
鈴木貴博(すずき・たかひろ)
取締役兼R&D本部長
2002年、株式会社シーエーシー入社。生産品質強化本部副本部長兼生産技術部長、技術企画本部長などを歴任。2022年にR&Dセンター長を経て、2023年にR&D本部長に就任。

——お2人はともに取締役であり、それぞれR&D本部と新規事業開発本部のトップです。まずは関係性を教えてもらえますか。

鈴木 中西君とは、直接同じ仕事をしたことはなかったですけど、昔から近いところにいました。何人かいる同志の1人です。仕事はすごくやりやすいですね。

中西 私にとっては大先輩なんですが、そういうことを感じさせない方なんです。壁を作らない方で、話をするのが楽しい。いつも「最近こんな技術や話題がありますがどうですか?」と真っ先に相談をしにいっています。そうすると、(鈴木)貴博さんはすでに答えを持っているんですよね。私が話を持っていくタイミングですでに検討が済んでいる。だから私は自分の考えの整理をさせてもらいに行くという感じでしょうか。

鈴木 そんなことはなくて(笑)、 常に変わっていく業界ですから、最新の情報を追いかけていかないといけないんです。先が読めないことも多いですが、「こういう可能性があるんじゃないか」ということをまとめて、みんなに伝えているだけです。

——改めてそれぞれの部の役割を教えてください。

中西 我々新規事業開発本部は、R&D本部で研究された先端技術をどうにか世に出して役立てたいと思って動いています。当社の事業開発の大きな強みは、R&Dチームで研究された技術をどう活かすか、というところから発想できることだと思っています。R&Dがイノベーションリードとしての役割で捉えた技術を、我々は商売に変えていくのが役割であり、、新規事業開発本部の使命です。事業開発に技術への高い感度が根底にあるのは、CACの最大の特徴でもあります。もちろんビジネス側からR&Dへ研究開発依頼を投げることもあります。こうして相互に高めあい、価値の高いビジネスを生み出していきたいと思っています。

鈴木 R&D本部は研究だけでなく、アプリケーションにする、実装し活用できる状態に持っていくことが特徴です。1つの企業に提供していたものを広く横展開できるようにしたり、我々が開発した技術をビジネスの様々な領域で実用に耐えるものにしていったりしています。

中西 CACの新規事業は、技術ファーストで始まる貴博さんチーム(R&D本部)からの企画、社会課題が先にあってそれをアイデアで解決しようとする企画、その中間で技術と課題解決アイデアを組み合わせた企画のおおよそ3つのパターンがあります。

技術ファーストの場合はR&D本部でお客さまと接点を持ってPoC(概念検証)を行い、それを横展開する際に我々がマーケティングを手伝う、という流れになります。アイデアが先にくる場合は、事業開発本部が先にマーケットの調査をして、貴博さんチームと技術的に実現可能かどうかをディスカッションするという流れです。その両輪で進めています。

事業開発 特別対談

鈴木 従来、ビジネスイノベーションに取り組むチームがあって、その中のビジネスを創ることができるメンバーが新規事業開発本部に、技術開発ができるメンバーがR&D本部に分かれました。もともと一緒に仕事をしていたメンバーが多いので、コミュニケーションを取って進めていく、ということはよくありますね。

中西 プロダクトによりますが、今でも多くのケースでR&D本部メンバーと新規事業開発本部メンバーが一体となって動いています。貴博さんには事業化の際の審査でも審査員として参加してもらっています。

——部署を超えた協働はCACでは珍しくはないのでしょうか。

中西 はい、珍しくはないです。協働は比較的カルチャーとして根付いています。アイデアを実現するには、企画力やビジネス遂行力だけではなく、世の中の技術を選定し、最適なインフラを選択し、実装できる力も重要です。全てのフェーズを高レベルでできる人はいませんから、社内で適切な部署に頼るしかありません。おおよそまず相談しにいくのがR&D本部です。我々CACの強みだと思うのですが、社内では技術者のポジションが高いです。役職や年齢にかかわらず技術者はリスペクトされています。リスペクトがベースにあるので、コミュニケーションはとてもスムーズです。

鈴木 リスペクトされている感覚はありますね。システムを作ったり運用したりする仕事は、システム規模、そしてプロジェクト規模が大きければ大きいほど収益が高いというのが普通です。そうすると、求められ、評価されるのは、技術よりも管理になってきますが、CACはそうではなくて、昔から会社として技術者を大事にする考えがあります。技術を志す人は働きやすい環境だと思いますよ。

——今まで立ち上げた新規事業の中で印象的な事例を教えてください。

中西 印象的な事例の1つとして、『カチメン!』があります。R&D本部が持っていた感情認識AIの技術を使って、面接のレベルを上げるという就活生向けのプロダクトです。

鈴木 『カチメン!』は印象的でしたね。『カチメン!』の前に、同じ感情認識AIの技術を使って話し方の改善提案アプリを作っていました。この話し方の改善提案アプリからコンセプトも機能も変えて、『カチメン!』というプロダクトができました。話し方の改善提案アプリでうまくいったところ、いかなかったところから学びを得て、『カチメン!』メンバーがうまく次のプロダクトを生み出してくれた事例です。これまでの技術的な取り組みの延長線上に新しいプロダクトができた点は、我々としてもうれしく思っています。

中西 いま話題に出た『カチメン!』の前身となったアプリは、セールスパーソン向けにプレゼンでの話し方を改善するためのツールだったんです。この技術を別の方向性でどう活かすかを我々のメンバーが考えたときに、面接で一番困っているのは就活生だろうという仮説から『カチメン!』が生まれました。

ただ、これまでCACが慣れ親しんだBtoB領域ではなく、ターゲットはBtoC領域の就活生になります。ターゲットにアプローチする方法も、アプリのUI/UXも変えないといけません。それは我々にとっては初めてのチャレンジでした。大学に行って学生にインタビューをしたり、文化祭にブースを出展して実際に使ってもらったり、TikTokでプロモーションしたりと未体験だった様々なことに挑戦しています。

その他の事例としては、2023年12月にローンチした介護向けの転倒検知システム『まもあい(mamoAI)』があります。カメラ映像から人の骨格を推定する技術を使っています。映像から骨格を推定し、姿勢を判定して、人が転倒したシーンを検知できるプロダクトなのですが、もともと転倒検知とは別の用途で研究開発が始まっているんです。R&D本部の中で転倒検知に利用できるというコンセプトは以前からあったのですが、「その領域はレッドオーシャンだろう」とあえて避けていたんです。しかし、新規事業開発本部でマーケット状況や競合製品を詳しく調べてみるとそうではなくて、まだまだ参入できる余地があることが分かり、『mamoAI』」のローンチにつながっています。R&D本部だけでも、新規事業開発本部だけでもたどり着けなかった、両部門の力がうまく嚙み合ってできた事例だと思います。

また、AI技術は養殖業にも活かしています。画像認識の技術を魚群測定に応用したプロダクトです。養殖業は魚が資産ですが、生け簀に魚がいるのを見せるだけだと銀行から融資を受ける際の担保にならず、借入が難しいんです。漁業者にとってのこの課題を解決し、魚を担保に低金利でお金を借りられるようにする、というのがこのプロダクトで実現しようとしていることです。生け簀に魚が何匹いて、それがどう育っているのかを、AIの技術を使って可視化できるようにしています。

鈴木 それなりの数のプロダクトが形になってきているので、うまく共創ができているなという感覚があります。外からどういうふうに見えているかはわからないですけど、手応えはあります。

事業開発 特別対談

中西 外部からも評価されていると思います。昨今多くの企業が採用に苦戦していると聞きますが、当社はおかげさまで多くの方に興味をもっていただいています

鈴木 本格的に新規事業に取り組んで、実際にプロダクトが世の中に出ていること、R&Dにも積極的に取り組んでいることを、学生も調べてくれているんですよね。

中西 そうですね。企業としてのベースになる安定した事業があり、一方で、チャレンジングな姿勢があるとしっかり分析してくれています。学生の声を聞くと「チャレンジをしたいならスタートアップやベンチャー企業に行けばいいけど、それだとリスクが高い。安定したベースがありながら、チャレンジしている会社は少ない」と評価してもらえているようです。

——安定性とチャレンジのバランスが、会社としての強みになっているということですね。

中西 あとはやはりクリエイティビティですね。会社として創造性や探究心、好奇心を大事にする姿勢を打ち出していることが大きいと思います。お客さまのビジネスの成功のために当社の力を注ぐことはもちろんとても大事なことなのですが、その際にも、どこかでともに価値を創造していくパートナでありたいと意識しています。AIの時代になっても、AIと共存しながら社会に価値を提供するというテーマに挑んでいるのがCACです。その最前線に我々が立たせてもらっています。

鈴木 お客さまに合わせて技術を提供することを何十年もやってきた会社です。それが大きな変革を迎えて、正直私だけだとできないと思っていました。しかし、わずか数年で様々なプロダクトを出せるフェーズになりました。まだまだ変革の途上ですが、変われる会社なのだ、そういう人材がいる会社なのだということが証明できるとうれしいですね。