真新しいビジネスを考えるには、多角的な視点をもつことが重要です。情報収集や分析も必要ではありますが、マインドや考え方のコツをつかむことで、アイデアも生まれやすくなるでしょう。
本記事では、新規事業を成功に導く3つの要件と、その3つ要件を満たすアイデアを出す方法、活用できるフレームワークをまとめました。様々な手法をとり入れて、視野を広げましょう。
新規事業を成功に導く3つの要件
新規事業を成功させるには、計画を立てる段階で「新規性・解決性・収益性」を意識することが重要です。この3つを満たしていないビジネスは、いくら斬新でも失敗する可能性が高くなります。
まずは新規事業の軸となる3つの要件を紹介します。
1.市場に新しい価値を提供できるか(新規性)
優れた商品・サービスを開発しても、すでに競合他社が似たような事業を始めている場合は、大きな収益にはつながりません。新規事業では優位性のある分野で勝負をする必要があると同時に、「市場に新しい価値を提供できるか」という新規性は欠かせない要素になります。
斬新なアイデアを出すことが難しい場合は、事業の付加価値に目を向けましょう。競合他社と似ている商品・サービスであっても、独創的な付加価値を加えることができれば、市場での優位性を高められます。
2.市場のニーズに応えられるか(解決性)
市場からのニーズがなく、ただ単に斬新なだけのアイデアは、ただの奇抜なビジネスのまま終わってしまいます。そのため、新規性のあるアイデアを思いついたら、「顧客が抱える課題(不安や悩み)を解決できるか」を慎重に考えましょう。
顧客課題を解決できる商品・サービスを提供できれば、新規顧客に加えてリピーターも獲得しやすくなります。また、良い評判や口コミが自然と広がれば、顧客獲得のためのマーケティング費用を節約できるかもしれません。
解決性を満たすビジネスを考えることは、新規事業の運営コストを抑える面でも重要です。
3.中長期で安定した利益を得られるか(収益性)
中長期で安定したリターンを生み出すことも、新規事業では欠かせない要件です。例えば、莫大な製造コストがかかったり、十分な供給が難しかったりする製品は、成功には結び付きにくいでしょう。
新規事業のアイデアは売上だけではなく、収益性(利益率)にも目を向けることがポイントです。仮に売上数が伸びなくても収益性が高ければ、安定した事業運営ができるかもしれません。
ただし、経済状況の変化によって、システムコストや原材料費などが安くなる(または逆に高くなる)可能性も考えられます。現時点でのデータだけで判断すると、成功の機会を逃してしまうこともあるので、事業の収益性は将来を見越して判断してください。
有望な新規事業のアイデアを出す方法
一般的に新規事業のアイデアは、自身が身の回りで感じている課題や、顧客の悩みに着目する方法で考えられています。しかし、前述の新規性を満たすには、より多くの情報を集めて様々な視点からアイデアを出すことが重要です。
具体的にどのような方法があるのか、以下で一例を紹介します。
他企業の成功事例を参考にする
1つ目は、同業他社や成長企業の事例を参考にする方法です。単に後発的なビジネスを考えるだけではなく、「農業とIT」「製造業と介護」のように複数の事例を組み合わせる方法や、市場・顧客層を少しずらすような方法もあります。
事例からビジネスを組み立てると、すでに他社が抱えている課題を分析できるため、様々なリスクに対処しやすくなります。ただし、真似をし過ぎると新規性を損なう点には注意が必要です。
また、海外の事例を参考にする方法もありますが、日本とは商習慣や文化などが異なるため、うまくいかないケースもあります。他社の成功事例はあくまで参考程度に留めて、ビジネスモデル自体は自身で組み立てましょう。
業界全体のバリューチェーンを整理する
バリューチェーンとは、企業の事業活動が付加価値につながる流れを表したものです。製造業を例にすると、一般的には「研究開発・調達・製造・出荷・マーケティング・販売」のような流れで、顧客や社会に価値が提供されています。
業界全体のバリューチェーンを整理すると、これから業界内で起きる変化や、本来であれば必要な活動(抜け漏れている事業)を見つけられるかもしれません。例えば、業界の上流で新しいIT技術が確立された場合は、その技術に対応できる人材やシステムを準備しておくと、業界内で重宝される可能性があります。
特にバリューチェーンの変化は敏感に察知し、新規事業につなげられないかを検討してみましょう。
既存事業の強み・弱みを分析する
新規事業のアイデアは、既存事業をベースに生み出されることもあります。
既存事業の強み・弱みを分析すると、得意分野や改善できる点が明確になります。その過程で、ターゲットにする市場や顧客を少しずらせば、新たなアイデアが思いつくかもしれません。
具体例としては、作業用の服や手袋などにファッション性を持たせて、一般層も取り入れるようなビジネスが挙げられます。反対に、既存商品に専門的な機能を追加することで、ターゲットを絞る方法もあります。
異なる技術分野や市場を組み合わせる
食品分野と化学分野のように、異なる技術分野・市場を組み合わせる方法も1つの手です。異分野に目を向けると、業界内では想定されてこなかった製法や素材などを発見できる可能性があるため、組み合わせ次第ではイノベーションにつながるかもしれません。
例えば、近年では農業とIT技術を組み合わせた「スマート農業」が注目されており、生産性の向上やノウハウの継承に役立っています。
買収や出資のトレンドを分析する
社会的にインパクトの強い発明や、ビジネスモデルを変革するような技術は、多くの大企業やベンチャーキャピタル(VC)などから注目されます。そのため、頻繁に買収・出資されている分野に着目することで、魅力的なアイデアが生まれるかもしれません。
近年ではメタバースやWeb3.0など、デジタル技術に関わる分野が注目される傾向にあります。2023年にはChatGPT(チャット生成AI)を手がけるOpenAI社に対して、Microsoft社が100億ドルを投資したことが話題になりました。
海外も含めて買収や出資のトレンドを分析し、新規事業のアイデアにとり入れてみるのも良いでしょう。
フレームワークを活用した新規事業の考え方
新規事業のアイデア出しでは、ビジネス用のフレームワークが広く活用されています。フレームワークを用いると、収集したデータや情報を整理できたり、新たな発想が生まれたりといった効果が期待できます。
ここからは代表的なフレームワークを例に挙げて、新規事業の考え方について解説します。
1.マンダラート/アイデアや発想を広げる
マンダラートは、81マス(9×9)のシートにメインとなる目標を記入し、そこからアイデアや発想を広げるフレームワークです。ビジネスシーンでは、中心のマスに解決したい課題や目標、参入する市場などを記入し、そこを起点に具体的なアクションまで落とし込むなど様々な使い方ができます。
<マンダラートを活用する手順>
1.シートを用意し、中心のマスにメインの目標などを記入する
2.その周りのマスに、関連する目標や課題(中目標)を記入する
3.シートを9つの区分(9マスずつ)に分けて、それぞれの中心に中目標を記入する
4.中目標の周りのマスに、関連する目標や課題、具体的なアクションを記入する
マンダラートはアイデア出しの他、課題解決までのプロセスを明確にしたいときや、データの整理などにも活用できます。
2.KJ法/断片的なアイデアを整理する
KJ法は、断片的なアイデアや情報をグループに分けて、相関関係を明確にすることで整理するフレームワークです。ブレインストーミングとの相性が良いため、複数人でアイデア出しをする際にも活用できます。
<KJ法を活用する手順>
1.アイデアや情報、データなどをカードに記入する
2.カードをグループ分けする
3.小さいグループを大きいグループにまとめる
4.関連性の高いグループ同士が近くになるように配置する
5.グループ間に相関性がある場合は、矢印を記入する
KJ法では新規事業のアイデアを可視化できるため、メンバー間の情報共有もスムーズになります。
3.SCAMPER法/チェックリストでアイデアを展開する
SCAMPER法は、9つの観点からチェックリストを作成し、アイデアや計画の幅を広げるフレームワークです。考案者であるアレキサンダー F. オズボーン氏の名前を取り、「オズボーンのチェックリスト」とも呼ばれています。
<SCAMPER法のチェックリスト>
Substitute:代用できるものはないか
Combine:他のものと組み合わせるとどうなるか
Adapt:類似したものはないか、他分野に応用できないか
Modify:他のものへの変更や修正ができないか
Magnify:サイズを大きくしたり、機能を追加したりできないか
Put to other uses:別の使い道がないか
Eliminate:取り除けるものはないか
Reverse:プロセスや機能、役割を反対にできないか
Rearrange:並べ替えはできないか
人によってチェックリストに対する回答は変わるため、複数人で活用することも検討してみましょう。
4.SWOT分析/自社や他社の強みを整理する
SWOT分析は、4つの要素からビジネスの内部環境・外部環境を分析するフレームワークです。自社はもちろん、他社のビジネスを当てはめることで、競合の強みや弱みまで分析できます。
<SWOT分析の要素>
Strength:強み(価格の安さや機能性など)
Weakness:弱み(高い製造コストや知名度の低さなど)
Opportunity:機会(市場の変化や流行など)
Threat:脅威(競合の存在や代替品の登場など)
SWOT分析の各要素を組み合わせると、さらに具体的な戦略を立てられます(※)。例えば、「強みと機会」を組み合わせたビジネスは優位性を築きやすい一方で、「弱みと機会」の組み合わせはリスクが大きいため、撤退も視野に入れる必要があるでしょう。
(※)SWOT分析とは区別し、クロスSWOT分析と呼ばれることもある。
5.SFプロトタイピング
先端科学などから着想を得て、製品のプロトタイプを開発するためのフレームワークです。フィクションをもとに考案する場合もありますが、ビジネスでは実現性を重視する必要があるため、最新の論文や研究資料などで情報収集をすることが重要です。
<SFプロトタイピングを活用する手順>
1.収集した情報をもとに仮説を立てる
2.仮説を現実にするための目標設定をする
3.製品のプロトタイプを開発する
4.市場への投入を想定しながら評価する
斬新なアイデアが生まれることもあるSFプロトタイピングは、イノベーションの創出につながる可能性があります。
6.アンゾフマトリクス
アンゾフマトリクスは、「製品・市場・新規・既存」の観点からビジネスを分析し、成長戦略を組み立てるためのフレームワークで、イゴール・アンゾフが提唱したのでこのように呼ばれています開発予定の製品情報や、参入予定の市場状況を書き込み、以下のように適した戦略を判断します。
<アンゾフマトリクスの判断方法>
既存製品×既存市場:製品の認知度や購入意欲を高めて、市場シェアの拡大を目指す。
既存製品×新規市場:新規市場への浸透を目指して、営業やマーケティングに注力する。
新規製品×既存市場:競合との差別化を図れる製品を開発する。
新規製品×新規市場:経験不足を補う方法や、コストを抑える施策を重点的に考える。
他のフレームワークで新規事業のアイデアが思いついたら、アンゾフマトリクスを活用して現時点でのポジションを確認してみましょう。
新規事業のアイデアは様々な角度から考えよう
市場のニーズに応えつつ、新規性や収益性もある新規事業を考えるには、様々な角度からアイデアを出すことが重要です。1つの方法ではアイデアの幅が狭まるため、複数の方法やフレームワークを組み合わせて、自身の視点を広げてみましょう。
また、アイデアを出す前には、社内外のデータを収集することも必要になります。収集したデータは新規事業立ち上げのプロセスにも役立つので、時間をかけて情報収集をしてください。
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