「CAC Innovation Hub」の新コーナー「R&Dのヨコガオ」が始まります。研究開発を担うR&D部門のエンジニアが日々どんなことを思い、考え、研究開発をしているのか…。エンジニアとしての悩みや、内に秘めた大きな夢なども語っていただき、普段の素顔とも少し違った、「ヨコガオ」に迫る企画です。
第2回は、2022年に入社したAI開発エンジニアの南場拓斗が登場します。南場とともにR&D本部で企画・営業を担当する光高とともに、若手エンジニアの「ヨコガオ」を探っていきましょう。
2022年に株式会社シーエーシーに入社後R&D本部に配属され、AI開発業務に従事。
主に介護施設や医療機関向けの見守りシステム『まもあい』の転倒検知や姿勢推定や、空調システム向けの画像分析AIの開発を担当。
2014年入社。DX対応を推進するシーエーシーのR&D本部で、AIやIoTなどの技術を組み合わせた新サービスの企画や営業をリードしている。
AIを育てていくように精度を高めるという仕事
――学生時代は、理工学研究科で情報科学を専攻されていましたが、どんな研究をしていたのでしょう。
南場 大学では照明光が人に与える生理的・主観的影響を生体応答(脳波や心拍)やアンケートなどのデータから統計学的に解析していくということをしていました。簡単に言うと光が人に与える影響の研究です。その頃から、「人とテクノロジーをどう繋げるか」に興味があったのだと思います。
テクノロジーは私が研究していた光と人の研究にも、様々な影響を与えます。就活中、CACが開発したプロダクトを見て、この会社であれば人とテクノロジーの関係性をより良くしていくための研究開発ができるのではないかと思い入社しました。
――担当しているプロジェクトについて、教えてください。
南場 複数のプロジェクトに参加していますが、1つはすでにリリースされている『まもあい』という製品です。介護施設や病院などのカメラの映像から、例えば、ベッドにいた患者さんが床に倒れてしまっていないかなどを検知するAIです。
もう1つは、まだ開発の真っ只中で、いつか事例紹介する機会があると思いますが監視カメラの映像から人の状態を計測して数値化するAIの開発と、このAI用の検証アプリ作成にも参加しています。他にも私が携わるものはありますが、いずれもAI開発に関係する業務にエンジニアとして携わっています。
光高 私は南場さんが絶賛開発中の製品のプロジェクトで、企画・営業を担当しています。ベースとなるAIは南場さんとは別のエンジニアが作っていましたが、そのAIの精度をより高めていく、いわばAIを育てていく段階で南場さんに参加してもらいました。南場さんにはいろいろなアイデアも出してもらい精度を高めてもらっています。
――南場さんにとって、AIの開発は入社してからの経験となりますね。
南場 AIと聞くと、なんとなく今の最先端で華やかといったイメージがありますが、私の普段の開発は地道な作業の積み重ねだったりします。AIのモデル開発を大雑把に捉えると、まずデータを集めてきて、モデルを構築して、検証を行うという流れです。検証では、AIモデルが学習するためのパラメーターを少しずつ変えて結果を見て、また少し変えてという繰り返しです。
そういう地道な作業が個人的には好きなのと、検証結果の精度を示すパーセント表示が高まってくるときのうれしさは、なんとも言えない充足感があります。言うなれば、地道な努力が形になって現れたような気がするんです。
「お客様の現場での経験」が、エンジニアとしての価値を高める
――プロジェクトを進めるなかで苦労したことはありますか?
南場 入社後、R&D本部に配属されてからしばらくは、お客様からは直接見えない、いわば裏側のAIモデルの開発をしていました。ある意味、気持ち的にはゆとりがありましたし、光高さんのプロジェクトに参加することになったときも、最初は、今までの延長で考えていました。
ところが、いざ作業を進めていくと、私にとってはじめての経験となる「お客様と協力しながらのAI開発」だとわかってきました。任される仕事のレベルも格段に上りましたし、責任感を持って進めなければいけません。ただ、責任感をひしひしと感じる一方で、自分の仕事の1つ1つがお客様が手にする最終的なアウトプットに影響するのだから、頑張ろう!という気持ちも湧いてきました。
入社する前は、一般的に社会人は下積みがあって、数年かけて少しずつ重要な仕事を任せられていくのかなと勝手にイメージしていたのですが、甘かったみたいです(笑)。でも、あらゆることが新鮮で、勉強になることが多い毎日です。
――そうした仕事を通じて学んだことはありますか?
南場 今の世の中って、だいたいのことは調べればわかります。でも、実際にお客様の現場へ足を運んで、お客様とお話しながら経験することと、単に調べただけのことでは圧倒的な経験値の差が出るということが身に沁みてわかりました。
光高 今のR&D本部は若手が中心のため、どうしてもお客様と相対する経験が少なくなります。今回のプロジェクトに参加したことで、開発したAIは最終的にはお客様に使っていただくという意識を持ってもらえたのは、とても良い機会だったと思います。
それに私がお客様からヒアリングしたことを又聞きするだけでは、AIの精度を高めるための検証作業をするにしても、なにが問題で、なにが正解か実感が湧かなかっただろうと思います。お客様と一緒に現場で検証を繰り返すと、全然違いますよね?
南場 そうなんです。一例をあげると、現場に設置されている監視カメラの映像の画質や部屋の暗さも想定より悪かったので、それ以降、AIに学習させる画像を加工するようにしました。現場を知らないと対応できないことや、「こうした方が良い」といった自分なりの改善案を思いつくこともあり、あらためてお客様と直接関わることの重要性を実感しています。
――そこで改めて伺います。自分で成長したと思うことは?
南場 私は成長を、様々な新しい視点を持つことだと捉えています。自分に新たな視点が加わったと思えると成長を感じられるからです。お客様の視点で物事を考えられるようになったり、会社の方針や上司が私に期待していることなど、いろいろな立場の視点を取り入れたりできるようになったことが、自分の成長だと考えています。
光高 南場さんの成長は近くで見ていても感じます。さらに求めるとするなら、年次の若い後輩や社内の他の部門の人、もっと広げて別の会社の方と協力して仕事をするなど、より多くの人との関わりを経験してほしい。というのも、エンジニアの中には自分のやりたい技術だけ突き詰める人も少なくないからです。例えば、専門知識のない人の意見にも耳を傾け、自分にはない発想を読み取る柔軟性を持てるエンジニアからは、面白い製品が生まれることが多いように思いますし、何より仕事をしていても面白い。なので、南場さんには幅広い視点と柔軟性を持ったエンジニアを目指すことで、自分自身の価値を高めてほしいと思います。
世の中の「マイナス」を「プラス」に変えるテクノロジー
――AI開発に携わるなかで考える「テクノロジーの可能性」についてお聞かせください。
南場 学生の頃にコンビニエンスストアでアルバイトをしていたことがあるのですが、とても大変な仕事でした。いまは、無人レジがずいぶん普及してきたと感じています。無人レジの登場で、店員さんが他の業務や、人にしかできない接客に注力できるように、テクノロジーの力が人を助ける世の中になればいいなと思います。
高齢化社会になり、介護施設や病院などでは人手不足の解消が、大きな課題というニュースもよく目にします。そうした課題も、たとえば『まもあい」のようなテクノロジーで解決していけるのではないでしょうか。
世の中のプラスのことに、さらにテクノロジーが加わってプラスを生み出すことをビジネス的には求められるかもしれませんが、私がやりたいのは、世の中のマイナスをテクノロジーの力でプラスに持っていくことです。
光高 近い将来、人の知能を凌駕するAGI(汎用人工知能)が出てくる可能性を感じるほど、ここ5年のテクノロジーの進化は目覚ましいものがあります。ただ、当社のコンセプトは「HCTech®︎」です。南場さんが言うように、技術がどんなに進歩しても、人間社会にとってプラスの世界になるようなAIを当社は作り続けていくだろうと思います。
南場 私も「HCTech®︎」の「人を活かして未来を創る、人間指向の技術」ということこそ、自分のやりたいことだと思い入社しました。AIエンジニアとして、「HCTech®︎」の目指す世界を実現できるよう頑張ります。
――今後、エンジニアとしてやりたいことは、どんなことでしょうか?
南場 さまざまなAIの中でも、生成AIの分野は、今後さらに社会に普及していくと思っています。今は、一ユーザーとして生成AIを使っていますが、一人のエンジニアとしては生成AIを作る側になりたいという気持ちがあります。
そのためには技術的に足りないことも多いので、勉強も必要です。今後のAIの進化は想像を超えてくる部分もあると思いますので、常に最新技術に触れて、変化に対応できるエンジニアを目指したいと思います。
光高 生成AIにそこまで興味があるとは知りませんでした。企画を担当する私には、南場さんやエンジニアのみなさんが柔軟な発想で新しい技術の開発にトライしている姿を見ながら、「その技術をどのように社会に役立てることができるか」を考えて、ビジネスにする役割があります。R&D本部は本質的に新しいことにトライしていく部門なので、南場さんもぜひやりたいことにチャレンジしてください。
▼技術者が気になる技術
私がハマっているゲームに、TRPGというジャンルのゲームがあります。テーブルトークRPGの略で、自ら作ったゲームのシナリオに沿って、プレイヤーがそれぞれ演者になり順番にサイコロを振りながらRPGを進めていくものです。最近は、実際にテーブルを囲まなくても、Discordなどのボイスチャットを通じてTRPGができるので便利です。プレイヤーはだいたい4〜5人で、およそ3時間程度で1ゲームが終了します。
参加者は例えば村人Aなら村人Aに、戦士ならば戦士になりきって、サイコロの出目によってタスクが成功したり失敗したり、ゲームが展開していきます。私はTRPGのシナリオやゲームの背景画像を作るのが好きで、プレイヤーというより、ゲームマスター側としてゲームを運営する方が多いです。
以前は1つのシナリオを書くのに1ヶ月ほどかかることもありましたが、生成AIが身近な存在になった今では、シチュエーションやゲームの目的、自分が描きたい世界観の資料を用意するだけで、あっという間にAIにシナリオを書いてもらうこともできてしまいます。
シナリオの大筋は決まっています。例えば、魔王を倒しにいくとかですね。ただ、そこに至るまでの行動はプレイヤーの自由です。どの町で村人と話すとか、何を買うといったことも自由なので、参加したプレイヤーの会話と想像力で世界がどんどん広がっていく面白さがいいんですよ。
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