「CAC Innovation Hub」の新コーナー「R&Dのヨコガオ」が始まります。研究開発を担うR&D部門のエンジニアが日々どんなことを思い、考え、研究開発をしているのか…。エンジニアとしての悩みや、内に秘めた大きな夢なども語っていただき、普段の素顔とも少し違った、「ヨコガオ」に迫る企画です。
第1回目は、2022年に入社したAI開発に携わる春日勇太が登場します。春日と同じR&D部門で企画を担当する及川とともに、若手AIエンジニアの「ヨコガオ」を探っていきましょう。
2022年に株式会社シーエーシーに新卒で入社後、R&D本部に所属し、顔認識AIの開発を担当。2023年からは顔認識AIの改善を行いつつ、それを組み込んだリモートワーカー向けモニタリングアプリの開発に従事。2024年現在も上記アプリのリリースに向けて開発に取り組んでいる。
1983年入社。オープン系システム開発のエンジニア、PMとして数々のプロジェクトに従事。2003年よりインフラ系サービスの部門長に着任。2005年には某複合機メーカーとJVを設立し、新規事業を所管。帰任以降もいくつかの部門を担当し、2019年に役職定年し、現職。入社以来、未開領域を開拓してきた自負と経験を活かし、AIソリューションの企画・営業に従事。
AIに夢中。気が付いたら大きなプロジェクトに携わっていた
――AIモデル開発を担当していますが、入社の際の希望は?
春日 AIに携わる仕事がしたかったことです。会社選びで一番重視したのもAI開発でした。当社が掲げるキーワードに「HCTech(Human Centered Technology)」というものがあります。「技術によって人の職はなくならない、むしろ人を活かすために活用するのが技術である」という意味ですが、この考え方にとても共感したことがCACに応募した大きな要因です。
入社後に何がやりたいか聞かれるタイミングがあり、聞かれるたびに「AIをやりたいです」と声を上げました。声を上げ続けたことで、R&D本部に配属され、最初の仕事からAIの開発に携わることができたのだと思っています。
及川 当社には声を上げた人の希望は受け止める社風があります。それに、AIの開発は当社でもまだ新しい分野。これまでのようにソースコードを書くシステム開発とAI開発は考え方が違います。今までソースコードを書いてきた人をAIエンジニアとして育成するより、学生時代からAIをやっている人の方が即戦力となります。学生時代からAIをやっている春日さんのような人材が、前向きに手を挙げてくれたことは、とても心強かったです。
春日 R&D本部に希望通り配属されて、入社から約半年後の10月にはAIのモデル開発に携わることができたのは、とてもうれしかったですし、誇りに思っています。
――現在担当しているプロジェクトについて教えてください。
春日 現在、開発に携わっているのは、情報セキュリティの保護を目的としたリモートワーカー向けモニタリングアプリケーションです。私の主な担当は、顔認識AI開発、モニタリングアプリ開発、そしてユーザーズガイドの作成の3つです。参加した当初は、まだ顔認識AIの開発段階でしたが、徐々に顔認識AIを組み込んだモニタリングアプリの開発へと移行していき、現在もこの製品の開発は進行中です。
ただ、プロジェクトに参加した当初は、「よしやるぞ!」という気持ちばかりで余裕もなく、目の前に与えられたタスクに取り組むことに精一杯でした。ところが、プロジェクトが進むうちに、「これは自分が思っていたよりも先の長い、今後に繋がる大きなプロジェクトである」ことに気が付き、責任のある仕事に携わっていることに、あらためて身が引き締まる思いがしました。
困難な状況で自分なりの答えを導き出せたワケ
――プロジェクトを進めるなかで課題に感じることについて聞かせてください。
春日 入社1年目は、求められた機能をとりあえず開発するだけで、今振り返るとユーザー視点が欠けていました。私は、大学で情報システム学を専攻していたのですが、学生の頃はユーザー視点を考える必要はなく、自分さえ使えれば良かったのです。しかし、今はユーザーの方々がいます。単に作るのではなく、「これは本当に使いやすいのか?」と考える機会が増えています。いわゆる「お客様視点」ということですが、とても大事なことだと感じながら、今も試行錯誤しています。
最近、特に感じるのがユーザーズガイドの作成です。自分が書くドキュメントは、必要最低限の使い方になりがちで、お客様の視点で考えると説明が足りません。及川さんは、「なぜその機能があるのか、何のために必要なのかを明記しないと利用される方は不安になってしまう」など、1つ1つ丁寧に指摘してくれました。まだまだ、自分には足りないことが多いと感じています。
及川 いやいや、初めてのことですから当然です。私も春日さんには、いろいろとリクエストをしていますが、常に粘り強く取り組む姿に感心しています。以前、アルゴリズムを考えるときに、私や春日さんの先輩も加わり議論になりました。そのとき、春日さんは一番若いので「はい、やります」と何でも聞いてしまいそうなところを、しっかりと考えて自分なりの答えを導き出しました。周りに流されずに、信念をもって粘り強く取り組んで、結論に結びつけることができたのはすごいと思います。粘り強さは才能です。
春日 ありがとうございます。でも、実を言うと、あのとき僕はもうパンク状態でした(笑)。ただ、課題があったとしても、及川さんをはじめ先輩方が手厚くサポートしてくださるので、技術的にもプロジェクトの進め方についても、困ったときには頼れる先輩がいる心強さがあります。
及川 プロジェクトの進め方などは私の得意分野なのでアドバイスできますが、技術面については春日さんの2年先輩のエンジニアのAさんがいいロールモデルになっていますね。
春日 Aさんは1人でどんどん開発を進めていける方で、僕が行き詰まったときにも丁寧に解決方法を示してくれるのでとても頼りになります。
及川 3年目には1人で仕事ができるようになるのが、当社の指標です。少ないアドバイスでも、自律して仕事ができるところまで我々が導いていきます。その後、5年目には後輩にアドバイスし、育成し、お客様にも信頼されることを目指します。さらにR&D本部でいえば、AIのモデルやAIエンジンを開発し、自ら開発したものを社内に展開したり、プロダクトにして世に出したりすることを春日さんには目指してほしいですね。
春日 はい、頑張ります!
困っているときに、AIの方から語りかけてくれる世界を夢見て
――プロジェクトに携わるなかで感じる成長について聞かせてください。
春日 成長は3つあると思っています。1つは技術的にできる範囲が増えていったこと。2つ目はチームとの連携です。今のプロジェクトでは若手4人で開発を進めていますが、お互いに機能テストなどをする際に自分から積極的に声がけができるようになりました。後輩にタスクをお願いするときにも、ドキュメントをまとめた上で口頭でも説明するようにしているので、作業がスムーズに進むようになりました。3つ目が、ドキュメント作成です。ユーザーズガイドでは及川さんに厳しくも丁寧にアドバイスいただいて、少しずつですが以前より確実に良いものができていると実感しています。
――“厳しくも”ということですが、及川さんは厳しいですか?
春日 厳しくないです(笑)。普段からフランクに接してくださって、とても話しやすいです。ドキュメント作成では、及川さんが教えてくれたことを踏まえて、もう一度つくってみると、ひと目でわかるようなものになるんです。的確なアドバイスに「すごい!」と思いつつ勉強しています。
及川 私は言うべきことは言うタイプなので、捉えようによっては厳しく感じるかもしれないですね(笑)。
――今後、AIエンジニアとして、どのようなことに挑戦していきたいですか?
春日 AIエンジニアとしては、まだまだ駆け出しだと思っています。ですが、HCTechにも通じることとして、ITを使うことで、AIが仕事を奪うのではなく、人を積極的にサポートしていけるような世界を目指したいです。例えば、人が困っているときに、AIの方から語りかけてくれるようなものも面白いと思います。
及川 語りかけてくれるAIなんて、いいアイデアですね。
春日 技術はこれからより身近になると思います。技術が人のやりたいことのハードルを下げ、人が自由にやっていける土台となることが理想です。例えば教育では地方と都市で格差がありますが、その差をAIで埋めたり、スポーツでもAIを通じてプロの動きを真似しやすくなったりする世界もあると思います。教育やスポーツに関わらず、技術の力で誰もが自分の突き詰めたいと思うことに進める世の中にしたいですね。
及川 春日さんには、これまで当社で作っていないようなAIを作ってほしいと思っています。HCTechにとって重要な構成要素となるような、人を察するAIをオリジナルで作れるよう期待しています。
*
対談中も笑顔のやり取りが続いたふたり。そこには世代を超えたパートナーとしての信頼関係が見て取れた。次世代を担うAIエンジニアが描く未来に期待したい。
新コーナー「R&Dのヨコガオ」では、これからもエンジニアのキャラクターを存分に引き出していきますので、お楽しみにしてください。
▼技術者が気になる技術
「世界モデル」というものがあります。2018年に発表された「World Models」という論文からそう呼ばれています。この技術についての僕の理解として、例を挙げて簡単に説明すると、人間の3歳児の脳を模倣するようなイメージです。3歳にもなると、ペットボトルを机から落としたら下に落ちるとか、バドミントンをやっていて、シャトルが空中で突然、鉄球になったら打ち返すのをやめて見送るとか。そういった想像する力をAIに持たせて、再現するという技術分野です。
私が興味を持ったのは、もともと人の知性に興味があったからだと思います。世界モデルが今後発展すれば、人間同士の会話のシミュレーションや感情を学んで、それを前提としたコミュニケーションを実現する可能性も考えられます。今はまだ物理的なシミュレーションですが、いずれは人同士のコミュニケーションを再現するような分野でも活躍するのではないかと思っています。
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