新規事業の企画書の作り方 8つの必須項目と生成AIを活用して質を高める方法
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新規事業の企画書は、経営陣や上司、投資家などの読み手を納得させるために作成するものです。アイデアを単にまとめた書類ではないため、「誰が読むか」を意識して記載内容を調整する必要があります。

では、どのような内容を含めると良いのでしょうか。本記事では、新規事業の企画書で必須になる8つの項目や、生成AIを活用して質を高める方法などについて解説します。

新規事業の企画書は目的によって内容が変わる

新規事業の企画書に記載すべき内容は、「誰が見るか」「なぜ作るか」という目的によって変わります。たとえば、経営陣を納得させるために作成するものと、金融機関に提出するものとでは、別の企画書を用意しなければなりません。

新規事業の企画書は、第三者を説得させるために作るものです。そのため、アイデアを伝えるだけだけでなく、アイデアを事業化するための、より具体的かつ現実的なプランも求められます。

<新規事業の企画書の主な活用シーン>
・上層部から新規プロジェクトの承認を得たいとき
・新規プロジェクトの決裁を得て、予算を確保したいとき
・金融機関や投資家から、融資や出資などの支援を受けたいとき

「誰が見るか」「なぜ作るのか」という点を意識して、記載すべき内容を1つずつ整理していきましょう。

新規事業の企画書で必須になる8つの項目

新規事業の企画書に記載する項目は、作成の目的によって変わります。例えば、融資や出資のために作成をする場合は、客観的かつわかりやすいデータを多く入れて、売上計画や利益計画の実現性や根拠にこだわる必要があるでしょう。

ただし、どのような企画書にも記載すべき項目はあります。ここでは、新規事業の企画書における必須項目について解説します。

1.事業理念や背景

まずは「なぜ自社がこの事業に取り組むのか」という観点から、事業自体の理念やこれまでの背景をまとめます。経営理念に基づいた事業であることを盛りこむことができると、説得性のある企画書になります。

事業理念や背景については、簡潔にまとめる程度で構いません。経営理念との親和性を意識しながら、「なぜこの事業なのか」「なぜ自社なのか」に対する回答を考えてみましょう。

また、第三者を納得させるためには、競合優位性やタイミングといった根拠につながる部分も補足する必要があります。自社が保有するノウハウや技術、市場環境の変化などを踏まえて、「新規事業が成功する理由」を考察してみてください。

競合優位性やタイミングの問いに対する回答が思い浮かばない場合は、フレームワークで自社の強み・弱みを分析する方法が有効です。たとえば、「強み・弱み・機会・脅威」を整理するSWOT分析を活用すると、自社を取り巻く内部環境や外部環境を整理できます。

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2.新規事業のコンセプトやサマリー

事業理念や背景が明確になったら、次は新規事業のコンセプトです。以下のような点を企画書に記載していきましょう。

・事業内容
・その事業で解決したい課題
・ターゲット層
・提供する製品やサービス(提供できる価値)
・将来的に実現したいことや目標値

企画書のメインともいえる内容ですが、事業の全体像は聞き手が理解しやすいように簡潔に伝えることが理想です。まずは記載すべき要点をピックアップして、直観的に理解できる内容を目指してください。

3.顧客に提供する価値

顧客に提供する価値は、ニーズや課題に応えられるものである必要があります。そのため、この項目ではターゲット層を深堀りし、一人ひとりが抱えているニーズ、課題や不安を明確にしていきます。

ターゲット層の深掘りでは年齢や性別のほか、趣味趣向や住んでいる地域、家族構成なども設定します。具体的なニーズや課題を思い描けるように、できるだけ細かい属性まで設定しましょう。

ターゲットが定まったら、そのターゲットの立場から抱えているニーズや課題を考察します。誤った提供価値を設定しないように、市場分析や業界分析によって得た客観的なデータも活用してください。その提供価値をどれくらいの人たちが求めているのか、どれくらいの事業規模が想定できるのかは「TAM・SAM・SOM」で見積もります。

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4.価値の提供方法

顧客に提供する価値については、提供方法まで考えておく必要があります。確実かつ効率的に提供するため、顧客にアプローチする「マーケティング」と、製品・サービスを届けるまでの「オペレーション」に分けて、具体的なアクションを整理しましょう。

マーケティングの項目には販売するチャネルや広告の種類などを記載します。「AIDAMA」や「AISAS」のフレームワークで整理すると分かりやすいでしょう。オペレーションについては「いつ・誰が・どこで・何をするのか」を整理して、価値を提供するまでの流れをまとめましょう。

5.想定されるリスクと解決策

実際のビジネスではさまざまな要因が絡み合うため、企画書通りに進むとは限りません。どのような事態にも対応できるよう、想定されるリスクと解決策をまとめておく必要があります。

具体的なリスクが思いつかない場合は、業界内や競合の事例を確認してみましょう。たとえば、上場企業のIR資料などを確認すると、懸念される内部環境や外部環境に関する情報がまとめられています。

6.既存事業とのシナジー効果

すでにコア事業を確立している企業は、新規事業と既存事業の組み合わせでシナジー効果(相乗効果)を生みだせる可能性があります。シナジー効果は外部へのアピールにもなるため、企画書には積極的に盛りこみたい内容です。

たとえば、ウェブサイトのレンタルサーバー事業を展開している企業が、大容量のデータを保管できるクラウドサービスを新たに展開すると、相互に送客が可能です。既存の顧客ネットワークを活用することで、新規事業のマーケティングが不要になる可能性もあるでしょう。

すでに保有している知識やノウハウ、技術、設備などを踏まえて、シナジー効果を生みだせないかも検討してみてください。

7.現実的かつ具体的なプラン

アイデア自体に魅力があったとしても、実現性の低いビジネスは現実的ではありません。特に外部を説得するための企画書である場合は、具体的なプランまで明示することが必要です。

プランについてはスケジュールのほか、予算や活用できるリソースも明確にしましょう。また、コストによって赤字になる可能性もあるため、原材料費や人件費などを含めた収益性も精査しなければなりません。

新規事業の目的は、長期的に続けて収益を生みだすことなので、「どうなれば(何があれば)継続的に推進できるか」という視点も踏まえてプランを組み立ててください。

8.実施目標(KPI)

新規事業は、途中経過を判断できるKPI(実施目標)の設定も欠かせません。読み手を説得するだけでなく、正しい方向に進んでいるかを確認する意味でもKPIは必要です。

KPIの例としては、見込み顧客数や認知度、案件率、受注率、市場でのシェア率などがあります。それぞれのKPIで具体的な目標値を設定しておくと、社内、チームの意識を統一することにもつながるでしょう。

【KPI事例】
マーケティング
・認知度
・見込み顧客数
・商談数
・受注数
・受注率 など

営業
・架電数
・商談数
・受注数
・受注単価
・受注率 など

採用
・応募者数
・面接数
・採用数
・採用率
・辞退者数 など

新規事業の企画書の質を効率的に高めるポイント

前述した必須項目を記載するだけでは、質が高い、説得力がある新規事業の企画書を作成することはできません。

ここからは、一度書いた新規事業の企画書の質を効率的に高めるための考え方や手法を紹介します。

作成の目的から記載内容を考える

企画書の記載内容で迷う場合は、「なぜ作成するか」という目的に立ち返りましょう。

たとえば、経営陣を説得するための企画書では、不安視されるリスクを徹底的に洗いだす必要があります。すでに競合が抱えているリスクはもちろん、市場や規制などの変化で将来発生し得るリスクについても、何らかの解決策を用意しておくことが求められます。

一方で、銀行に提出する企画書では、返済能力を明確に示すことが重要です。そのため、ビジネスが成功する具体的な根拠や、詳細な返済プランなどが必要になると考えられます。

「読み手がどういった情報を求めるか」を意識して、記載項目や全体の構成を見直してみましょう。

生成AIを活用する

新規事業の企画書の作成では、ChatGPTなどの生成AIも活用できます。

生成AIにはさまざまな活用方法があり、新規事業の提案やビジネスモデルの構築、データの整理や分析、リスクの洗い出し、抜け漏れのチェックなどにも対応します。指示内容を工夫することで、新規事業の実現性や将来性を展望させることもできます。

実際にどのような活用方法があるのか、以下ではプロンプト(指示内容)の例を紹介します。

<プロンプトの例(新規事業の提案と、企画書の大枠を作成)>

○○社では、コア事業として法人サイト用のレンタルサーバーを貸しだす事業を行っています。
あなたは○○社の企画担当者であり、コア事業とのシナジー効果を生みだす新規事業を企画しようと考えています。

#制約条件
- ターゲット層はウェブサイトを運営する法人や個人事業主です。
- 新規事業とコア事業で、相互に送客できるような仕組みを構築する必要があります。
- 確保できる予算は△△円、1年以内のサービス提供を目指します。
- レンタルサーバーの特徴は、業界トップレベルの負荷耐性と表示速度です。
- コア事業ではオプションとして、ドメインの取得サービスも展開しています。

#指示
- 独創的かつ現実的で、日本では競合が少ないサービスのアイデアを提案してください。
- 既存顧客だけではなく、新たなターゲットも創出できるサービスにしてください。
- 提案したアイデアについては、下記の情報をまとめてください。

・事業理念や背景
・新規事業のコンセプトやサマリー
・顧客に提供する価値
・価値の提供方法
・想定されるリスクと解決策
・既存事業とのシナジー効果
・現実的かつ具体的なプラン
・実施目標(KPI)

<プロンプトの例(新たなターゲットの発掘)>

○○社ではコア事業のレンタルサーバー事業と連携し、法人サイトの運営を包括的にサポートする新規事業を始める予定です。
具体的なサービスとして、AIを活用したSEOの最適化や、コンテンツマーケティング支援、広告キャンペーン管理などがあります。
あなたは○○社の企画担当者であり、新規事業のターゲット層やマーケティング施策を分析する必要があります。

#制約条件
- 新規事業の料金は、顧客が希望するサポートに合わせてカスタマイズする予定です。
- 将来的には海外への展開を考えていますが、法令や市場の調査が別途必要になるため、現段階では国内への展開しか考えていません。
- コンプライアンスに配慮し、法令などは遵守することが前提です。

#指示
- 現時点で考えられるターゲット層を列挙してください。(業種、会社規模、関心を示す担当者の属性など)
- サービス詳細の調整でほかのターゲット層を開拓できる場合は、具体的な対策と合わせて教えてください。

<プロンプトの例(リスクの洗い出しと解決策の提案)>

あなたは○○の企画担当者として、AIでウェブコンテンツを最適化するサービスを考案しました。
このサービスを事業化するためには、企画書を作成して経営陣を説得する必要があります。

#制約条件
- 考案したサービスは日本のみで提供する予定です。
- 予算は△△円、サービス提供開始は2030年を計画しています。
- コンプライアンスに配慮し、法令などは遵守することが前提です。

#指示
- 新規事業で想定されるリスクを可能な限り挙げてください。
- それぞれのリスクに対する解決策も考えてください。

<プロンプトの例(抜け漏れのチェック)>

添付した資料は、○○社が考案した新規事業のビジネスモデルや構想をまとめたものです。
あなたは○○社の企画担当者であり、新規事業の実現性や将来性を分析する必要があります。

#制約条件
- サービスの提供開始は2026年を予定しています。
- 現時点での予算は△△円であり、軌道に乗り始めたら□□円までの増額を予定しています。

#指示
- 資料の内容をもとに、以下の要素に抜け漏れがないかを確認してください。
・事業理念や背景
・新規事業のコンセプトやサマリー
・顧客に提供する価値
・価値の提供方法
・想定されるリスクと解決策
・既存事業とのシナジー効果
・現実的かつ具体的なプラン
・実施目標(KPI)
- 上記のほか、資料に記載することが望ましい要素がある場合は指摘してください。
- 実現性が低いと予想される場合は、具体的な改善策を教えてください。

なお、生成AIは万能なツールではなく、データ分析についても正しい結果が出力されるとは限りません。最新の情報が反映されない場合もあるため、活用するシーンは慎重に判断しましょう。

使い方によっては盗作や情報漏えいのリスクもあるので、各サービスの特徴や出力結果の信ぴょう性は必ず確認しましょう。

定量的なデータで根拠性を高める

新規事業の企画書で第三者を説得するには、憶測を極力減らすことが必要です。著名な連続起業家でもない限り、作成者の主観が含まれていると、事業自体の実現性や根拠性が疑われてしまうため、定量的なデータを中心に組み立てましょう。

定量的なデータとは、具体的な数値で示した情報のことです。たとえば、「30代のユーザーを多く獲得する」という目標を伝える場合は、提供するサービスの市場規模や見込み顧客数、類似サービスのリピート率などを添えると、より説得性の高い目標を設定できます。

そのほかの記載項目についても、可能な範囲で定量的なデータを取り入れましょう。

疑問をぶつけてブラッシュアップする

新規事業の企画書の質を高めたい場合は、「なぜ」「何を」「どんな」などの疑問をぶつけましょう。これらの疑問を一つひとつの項目にぶつけると、説明が不十分な箇所を洗いだすことができます。

自問自答することで質を高められる可能性もありますが、上司や同僚、あるいは他部署の同期など、自分とは違う視点を持つ第三者と壁打ちをする方が問題点や伸長点に気づきやすく、また新たな発見もあるでしょう。

<ぶつける疑問の例>
・なぜこの事業を企画したのか
・何を達成したいのか
・どんな部門やチームでプロジェクトを進めるのか

上記のほか、記載内容によっては「いつ」や「どうやって」などの疑問も有効です。「いつまでに○○をするか」や「どうやって事業を続けるか」など、さまざまな角度から疑問をぶつけてみてください。

新規事業の企画書は目的を明確にし、質にもこだわる

新規事業の企画書は読み手を納得させるために作るものです。

まずは「なぜ作成するか」という目的を明確にすること。その上で説得力を高めるために質にもこだわってブラッシュアップしていきましょう。

質を高める方法として、生成AIの活用や定量データの収集のほか、周囲の人たちとの壁打ちなどがあります。さまざまな方法を試してより良い企画書に仕上げましょう。

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