PLGとは? SLGとの違いやメリット・デメリット、成功させる5つのポイントを解説
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SaaS型サービスを中心に、近年ではPLG(プロダクトレッドグロース)によって急成長を遂げたプロダクトが増えてきています。日本での成功例もいくつか見られますが、PLGにはどのようなプロダクトが向いており、どのように戦略を立てれば良いのでしょうか。

本記事では具体例を交えて、PLGの概要や従来の方法との違い、成功させるポイントなどを解説します。

目次

  1. PLG(プロダクトレッドグロース)とは?
  2. PLGとSLGが注目される背景
  3. PLGを導入するメリット
  4. PLGを導入するデメリット
  5. PLG導入を成功させる5つのポイント
  6. PLGの成功事例
  7. プロダクトに合わせてPLG導入の計画を考えよう

PLG(プロダクトレッドグロース)とは?

PLG(Product-Led Growth)とは、プロダクト自体に様々な機能をもたせて、プロダクト主導でビジネスを成長させる考え方です。活用例として一般的なのは、製品などに営業やマーケティングの機能を組み込むことで、利用開始や認知されるまでの期間を短縮する方法です。

PLGには人的リソースを節約する効果もあるため、中小規模の企業や組織が新規事業を起こす際にも活用されています。すでに国内でも導入例が増えており、PLGの採用によって急成長を遂げたプロダクトも存在します。

PLGの具体例

PLGの分かりやすい例としては、オンラインストレージの『Dropbox』が挙げられます。

Dropboxは、基本的な機能を無料で利用できるサービスです。ただし、利用できるストレージには制限をかけ、容量が不足したユーザーに対しては、紹介ページの共有を求めるシステムを採用しました。

具体的には、知人や友人に紹介ページを共有すると、追加のストレージを無料で獲得できる仕組みになっています。この施策により、Dropboxは既存顧客をサービスに定着させるのと同時に、新規顧客を獲得するための環境を整えました。

この事例のように、ユーザーが利用するまでのハードルを下げている点と、サービス自体に顧客開拓の機能をもたせている点は、PLGの典型的な特徴といえます。

SLG(セールスレッドグロース)との違い

SLG(セールスレッドグロース)との違い

PLGに対して、営業やマーケティングを主導にした考え方は「SLG(Sales-Led Growth)」と呼ばれています。ユーザーが製品・サービスを利用するまでの流れが異なり、SLGではプロダクト自体に顧客開拓の機能をもたせることはありません。

<PLGの基本的な流れ>
1.プロダクトの認知
2.ユーザーによるプロダクトの利用
3.プロダクトによる営業活動
4.新規顧客の獲得

<SLGの基本的な流れ>
1.プロダクトの認知
2.プロダクトの情報を市場に提供
3.セールスパーソンによる営業活動
4.ユーザーによるプロダクトの利用
5.新規顧客の獲得

PLGとSLGの大きな違いは、ユーザーがプロダクトを利用するまでの速さです。PLGでは、ユーザー体験を通して営業やマーケティングを行うため、SLGよりも早い段階で製品・サービスを提供できます。

PLGとSLGが注目される背景

PLGとSLGが注目される背景には、消費者行動の変化があります。

現在はインターネットやSNSなどが普及した影響で、多くのユーザーが様々な情報にアクセスできるようになりました。それに伴い、レビューや口コミから情報収集をする機会が増えており、ユーザーの実体験をもとに購入判断をするケースが増加しています。このように、実体験の情報が重視されるプロダクトについては、ユーザーが早い段階で利用できるPLGが望ましいでしょう。

また、技術の進歩によるプロダクトの多様化も、PLGやSLGが注目される一因と考えられます。例えば、単機能かつ低単価のプロダクトと、多機能かつ高単価なプロダクトでは、確保できる人的リソースが異なります。そのため、「人的リソースをどれだけかけられるか」「人によるマーケティングが必要か」などを加味して、プロダクトに合った戦略を選ばなければなりません。

例外はありますが、基本的には少ない人的リソースで事業化を目指す戦略として、PLGを選ぶケースが増えてきています。

PLGを導入するメリット

PLGではプロダクト自体に顧客開拓の機能をもたせるため、人的リソースに加えて営業やマーケティングのコストも削減できます。

<PLGを導入するメリット>
・人的リソースを削減できる
・営業やマーケティングのコストを削減できる
・早い段階でフィードバックを得られる

また、早い段階でプロダクトを提供することにより、ユーザーからのフィードバックを得られる点もメリットです。例えば、フィードバックをもとに必要な機能を追加すると、有料プランのチャーン(解約)やトラブルを防ぐ効果が期待できます。

その他、潜在顧客に訴求力のあるアプローチをしやすくなったり、必要なサポートを的確に判断できたりなど、ユーザーからのフィードバックは様々な場面で役立ちます。

PLGを導入するデメリット

通常、PLGでは営業担当者がいないため、プロダクト自体に価値がないとマーケティング効果は期待できません。また、サブスクリプション型のビジネスで採用する場合は、営業担当者がいる場合と比べて、ユーザーによる契約・解約の兆候を把握しづらい側面があります。

<PLGを導入するデメリット>
・プロダクト自体にマーケティング効果が左右される
・契約や解約の事前認識が難しい
・提供方法によっては収益化が難しくなる

その他、プロダクトの提供方法によって収益が変わる点にも注意が必要です。例えば、無料プランの範囲を広げすぎると有料プランの価値が下がるため、ほとんどのユーザーは無料のまま使い続けるでしょう。

一般的に、PLGを用いるプロダクトは有料版や有料サービスで収益化をすることが多いため、プロダクトの提供方法は慎重に判断する必要があります。

PLG導入を成功させる5つのポイント

ユーザーの特性から考えると、PLGとSLGでは適した戦略が異なります。PLGでは、製品・サービスの利用を通してマーケティングを行うため、プロダクト自体の価値を高めることが必要です。

具体的にどのような準備をすれば良いのか、以下ではPLG導入を成功させる5つのポイントを紹介します。

1.MOATフレームワークでプロダクトの価値を判断する

プロダクトの価値を判断するには、外部環境を徹底して分析する必要があります。いくら機能性や価格面が優れていても、市場での優位を保てない場合は、そもそもユーザーの利用につながりません。

プロダクトの価値やPLGとの相性については、MOATフレームワークを活用した分析が一般的です。MOATフレームワークでは、4つの観点から適した戦略を判断します。

<1.Market strategy(市場戦略)>
市場戦略の観点から判断すると、PLGは以下に該当するプロダクトに向いています。

  • 市場にある既存製品より安価かつ高機能であり、使い方も分かりやすい
  • 市場にある既存製品より低機能ではあるものの、価格は安い

一方で、特定のターゲットやニーズに訴求するプロダクトは、それらに柔軟に対応できる営業担当者をつけられるSLGが向いています。

<2.Ocean conditions(競争環境)>
ビジネスの競争環境は、多くの競合がいる成熟した市場(レッドオーシャン)と、競合が少ない未成熟な市場(ブルーオーシャン)に分けられます。

一般的に、レッドオーシャンはニーズを自覚しているユーザーが多く、既存製品の課題も明確になっているため、PLGに適合しやすいといわれます。一方で、製品・サービス自体の認知度が低いブルーオーシャンでは、プロダクトの提供前に十分な説明(営業)が必要です。

<3.Audience(意思決定者)>
PLGはプロダクトを実際に利用してもらい、ユーザーに価値を体感させる戦略です。そのため、購入者と意思決定者が同じプロダクトは、PLGがうまく機能する可能性があります。

一方で、購入者と意思決定者が異なるプロダクトは、基本的にSLGが向いています。具体例としては、現場のスタッフがプロダクトを使い、企業上層部が購入を決めるようなケースが挙げられます。

<4.Time-to-value(価値の提供時間)>
価値の提供時間とは、ユーザーがプロダクトを実際に利用し、自身にとっての価値を自覚するまでの時間です。この時間が長すぎると、多くのユーザーは価値を感じる前に離脱してしまいます。

特に営業担当者がいないPLGでは、ユーザー自身で価値を見つけることになるため、価値の提供時間はできるだけ短縮する必要があります。したがって、初期設定に時間がかかったり、機能の理解が難しかったりするプロダクトは、PLGには向いていないと考えられます。

2.複数のマーケティング施策や料金プランを用意する

広告などを利用して短期間でユーザーを増やしても、プロダクト自体に顧客開拓できる仕組みがなければ、PLGの成功には結び付きません。そのため、プロダクトに搭載するマーケティング機能は候補をいくつか作り、顧客の特性に合ったものを実装しましょう。

また、収益化をするプロセスでは、料金の設定に注意する必要があります。特に無料でプロダクトを提供し始める場合は、相場と同程度の金額でも有料プランには難色を示されるかもしれません。

ユーザーの反応を見ながら柔軟に対応できるように、基本的には複数のマーケティング施策や料金プランを用意しておきましょう。

3.利用状況のデータを収集・分析する

プロダクトの利用状況をデータ化すると、各ユーザーに特化した提案がしやすくなります。

例えば、趣味の範囲でプロダクトを利用するユーザーと、ビジネスシーンで活用しているユーザーとでは、求めている機能や価格帯に違いがあります。このような場合に、ユーザー特性に分けて提案内容を変えられる仕組みを作ると、コンバージョン率(有料プランへの切り替えなど)が向上するかもしれません。

マーケティング施策や料金プランとの兼ね合いを意識しながら、収集・分析が必要になるデータを検討してみましょう。

4.自動でCall To Actionをする仕組みをつくる

Call To Actionとは、プロダクトのユーザーを誘導する仕組みです。前述の通り、PLGでは価値の提供時間を短縮する必要があるため、できるだけ自動でCall To Actionをする仕組みを作りましょう。

例としては、利用状況に応じたプランの提案や、自動で表示されるヘルプ機能、不具合が出たときに問い合わせ先を自動表示する機能などが挙げられます。プロダクトの特性を意識して、ユーザーの悩みや不安に先回りができる仕組みを考えてみてください。

5.充実したサポートで離脱を防ぐ

営業担当者をつけないPLGでは、あらかじめサポートを充実させることも重要です。例としては、悩み別の問い合わせ窓口や、カスタマーサクセス部門の設置などがありますが、人的リソースが限られる状況では難しいかもしれません。

そのため、まずはユーザー自身で問題を解決できるように、セルフオンボーディング環境の整備を考えましょう。セルフオンボーディングとは、プロダクトとユーザーの力で問題を解決する考え方であり、分かりやすい施策としてはFAQやチャットボットの設置、使い方のヒントを表示する機能などがあります。

PLGの成功事例

実際にPLGで急成長を遂げたものには、どのようなプロダクトがあるのでしょうか。ここからは、代表的な成功事例を紹介します。

HubSpot

マーケティングソフトウェアを提供するHubSpotは、個人や小規模な組織を対象に、一部の機能を無料で提供しています。また、クレジットカード情報が不要、GoogleやMicrosoftのアカウントでもログインできるなど、利用のハードルを下げる様々な工夫が見受けられます。

専門性の高いシステムでユーザーの習熟が必要なプロダクトや、スモールスタートしたほうが結果として導入が上手くいくプロダクトは、一般的にPLGとの相性が良いとされています。HubSpotのソフトウェアにも同様の特性があり、グレードアップを検討しやすいようユーザーに向けて多様なプランを展開しています。

Chatwork

クラウド型のビジネスチャットツールであるChatworkは、PLGとSLGの併用によって成功したプロダクトです。プロダクトの初期にはフリープランのユーザー数をKPIにし、一般的なマーケティングや展示会に着手すると同時に、ユーザーアクティビティの分析にも注力しました。

プロダクトの入り口としては、登録ユーザー数やストレージ容量などを制限した無料プランが用意されています。また、有料プランについても1ヵ月の無料期間が設けられており、ユーザーが価値を実感できるように工夫されています。

Canva

オンラインで使用できるグラフィックデザインアプリのCanvaも、PLGでユーザー数を伸ばしているプロダクトです。本サービスでは、一部のデザイン機能やテンプレートを無料で提供することで、ユーザーが利用するハードルを下げています。

また、目的に合わせて複数の有料プランが用意されており、Chatworkと同じく無料トライアル期間が設けられています。他にも月単位・年単位の支払いサイクルから選べたり、ユーザーの属性別(個人、チーム、教員向けなど)にプランを分けていたりなど、幅広い層にアプローチできる仕組みが整えられています。

プロダクトに合わせてPLG導入の計画を考えよう

ビジネスを成長させるには、プロダクトの特性から市場への提供方法を考えることが重要です。企業の新規事業開発では営業・マーケティングのリソースが一定量あることからSLGで進めることが多くありますが、特にSaaS分野では、PLGのほうが効果を見込めるかもしれません。

導入のメリット・デメリットを比較した上で、プロダクトに合わせたPLG導入の計画を考えてみましょう。