Go to Market戦略とは? 市場進出を成功させる7つのステップと指標を紹介
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Go to Market(市場進出)戦略は、新規市場にプロダクトの投入を考えている企業にとって重要な戦略ですが、実際にどのような手順で進めたら良いのでしょうか。本記事では、Go to Market戦略を策定する目的や具体的な手順について解説します。

Go to Marketとは

Go to Market とは、企業がプロダクトをどのように顧客に届けるのかをまとめた戦略です。日本語では「市場進出戦略」「市場投入戦略」を意味し、「GTM戦略」と略されることもあります。

Go to Market戦略を策定することで、新規市場において自社プロダクトの存在感をアピールする方法や販促方法などを明確にできます。新商品を発表してから売り上げを確実につくるためにGTM戦略を策定し、それに沿ってマーケティングや販促活動を行っていきます。

Go to Market戦略の目的

Go to Market戦略を立てる目的は、自社プロダクトの販売計画などをまとめ、特定市場におけるシェアや売上の拡大を目指すことです。これらの目的を達成するために、以下のような施策を実施します。

  • 自社プロダクトのベネフィットを伝え、競争優位性を獲得する
  • 顧客の属性を的確に捉え、適切なチャネル(※)で販促活動を行う
  • 効果的なプロモーションを展開し、広告宣伝を効率的に行う

効果的なGo to Market戦略を策定するためには、目的を達成するために何をやる必要があるのかを明確にすることが重要です。

(※)集客するために活用できる媒体(メディア)、販売経路のこと。

Go to Market戦略の策定手順

Go to Market戦略を立てる手順は、以下の通りです。

手順1:ターゲットの明確化 

市場に合わせた適切なアプローチを行うためには、まず自社プロダクトを届けるターゲットを定義することが重要です。そのためには、プロダクトのメリットやベネフィットを整理し、それを求めている顧客がどのような人なのかを絞り込みます。

ターゲットを明確にするために検討すべきポイントは、以下の通りです。

・市場の選定

プロダクトを購入してくれる顧客が多い市場を選定するために、市場調査をする必要があります。この時に注目すべき点は、市場規模や成熟度、競合企業の数や市場シェアといった要素です。競合企業との違いや自社ならではの付加価値などを見つけ出し、存在感を示すことができるのかを見極めましょう。

・メリットは何か

ここでのメリットは、プロダクトそのものの「強み」や「利点」「価値のある特徴」などを指します。プロダクトがどのような顧客の課題を解決できるのか、どのような価値を提供できるのかなど、提供者視点のアピールポイントです。

・ベネフィットは何か

ベネフィット(Benefit)とは、直訳すると「恩恵・利益・報酬」などを意味する英語で、「顧客がプロダクトによって得すること、満足すること」と解釈できます。自社プロダクトを利用することで、メリットとは別に、どのように得をするのか、どのようなプラス効果を感じることができるのかといった具体的な内容を考えましょう。顧客視点で表現することが重要です。

・顧客は誰か

自社プロダクトを購入したいと考えている顧客像を定義します。顧客が企業であれば業種や企業規模、地域を、個人であれば年齢や家族構成、所得などを考慮して、グループ化(セグメント)しておくことがポイントです。

ある程度の顧客像を設定できたら、次にプロダクトによって提供できる価値に対していくらまで支払ってくれるのか、目標の売上をつくるにはどのような顧客をターゲットにする必要があるのかまで考えましょう。

・ペルソナの作成

セグメントから「人」の粒度に具体的に絞り込んだ顧客イメージを、ペルソナといいます。ペルソナでは、価値観や人間関係、行動パターンなど様々な項目を掘り下げます。「顧客は何を欲するのか」「決裁(購入)の決め手は何か」といった顧客のニーズや行動心理を把握するためにもペルソナの作成は必要です。

これらの方法でターゲットになる顧客の解像度を高めることがGo to Market戦略の成功を左右するカギとなります。

手順2:ターゲットごとのキーメッセージを整理

キーメッセージとは、プロダクトの価値や魅力を凝縮した「簡潔で分かりやすい一文」のことです。

BtoBビジネスの場合、ターゲットになる企業の中に「窓口担当者・現場での利用者・決裁権を持つ役職者」など様々な役割を持つ社員がいます。複数の社員がそれぞれの役割に基づいてプロダクトの購入の意思決定にかかわるため、役割ごとのニーズに応じたキーメッセージを設定することが重要です。作成したキーメッセージを社内で共有しておくことで、チームで一貫した方針をとることもできるでしょう。

手順3:バイヤージャーニーの作成

バイヤージャーニーとは、何らかの課題を認識した顧客が、プロダクトを購入するまでの流れを可視化したものです。顧客がどのように自社プロダクトを知るのか、比較検討の際に決め手となるポイントは何かを考えるためにバイヤージャーニーを作成します。

・バイヤージャーニーのステージ

バイヤージャーニーは、「認知」「検討」「決定」の3つのステージで構成されます。ステージごとに効果的なアプローチを行うために、下記の例を参考に適切なチャネルを決定します。

ステージ1.認知
意識:顧客が自身の課題に気づく
チャネル:Webサイト、SNS、Web広告、オウンドメディアなど
ステージ2.検討
意識:顧客が課題を特定し、解決策を検討する
チャネル:プレスリリース、ニュースレター、動画、セミナーなど
ステージ3.決定
意識:顧客がプロダクトの購入を決定する
チャネル:問い合わせ、見積り、導入事例、製品比較、価格表など

・最適なチャネルはターゲットによって異なる

チャネルの決定には、様々な観点での検討を要しますが、なかでも「ターゲットの属性」が重要です。

多くの企業がWebマーケティングを有力な手段だと考えていますが、ターゲットによってはWeb広告やSNSによる拡散が馴染まないケースもあります。例えば、大衆向けではないごく一部の富裕層(百貨店で外商がつくような顧客層)をターゲットにする場合は、既存顧客との関係づくりなどが大切になるため、Webマーケティングが有効な手段にならない可能性があります。

このように「ターゲットの属性」によって、最適なチャネルが大きく異なることを頭に入れておきましょう。

手順4:認知度を高める 

自社プロダクトの認知度を高めるためには、広告宣伝が不可欠です。Web広告やSNS、電車内の広告、看板、集客イベントなど、様々な手段が候補となります。

・B to Cの場合

顧客が個人の場合は、テレビCMやWeb広告、SNSなどで広く関心を集める方法があります。これらを通してプロダクトを購入できるECサイトや店舗などに見込み客を誘導します。ターゲットやプロダクトの性質を考慮して、様々な誘導の方法で購入できるようにすることがポイントです。

・B to Bの場合

顧客が企業の場合は、Webサイトやオウンドメディアなどが認知度を高める手段となります。興味を持った顧客に直接アプローチをして、自社プロダクトの概要や契約プランを説明する場を作り出しましょう。

B to Bでは顧客との関係性の構築・維持を行うことで、大量受注や長期契約につながり、購入金額が高額になる可能性があります。

手順5:販売計画の立案

ここまでの手順で設定したターゲットやバイヤージャーニーを参考に、具体的な販売計画を立てます。次に挙げる4つの販売方法それぞれの特徴を活かし、適切な組み合わせを選択しましょう。また、社内リソースの割り当てや優先順位、具体的なスケジュールなども併せて決める必要があります。

・インサイドセールス

見込み客に対して、メールや電話、オンライン会議ツールなどの非対面のアプローチによって購入を促すセールスモデルです。地理的な制約を受けずに営業活動が行えるため、顧客のオフィスに訪れて営業するよりも少ない人員で多くの見込み客にアプローチできます。

また、顧客に対して長期間のフォローがしやすく、アプローチを続けることで購入確率の向上や再購入を促す効果も期待できます。

・フィールドセールス

営業担当者が見込み客を訪問して、自社プロダクトについて直接説明を行うセールスモデルです。

顧客と対面することで顧客の抱える課題やニーズを引き出しやすくなります。顧客からの問い合わせや不満点に即座に対応することができるため、顧客満足度の向上も期待できます。労力はかかりますが、顧客との信頼関係を築きやすく、大きな受注を狙うことができます。

・セルフサービス

セルフサービスとは、見込み客が自らの判断でプロダクトを選び、購入や契約について検討し、判断する営業手法のことです。

ECサイトを通じた購入やサブスクリプションサービスのように、Web上で認知から購入まで完結させるセールスモデルが代表的です。営業担当者が介在しないため、いかに興味を持ってもらうのか、プロダクトの内容や特徴を理解してもらうのかという点が課題となります。

・販売代理店

販売代理店では、プロダクトの商談から販売までを行ってくれます。自社では開発・生産に専念し、営業活動は全て(または一部)を外部に任せられる営業手法です。

複数のプロダクトを扱っている販売代理店もあるため、代理店へのサポートを行い、優先的に営業を行ってくれる関係性を築くことが大切です。会社ごとに得意な領域などが異なるため、1社だけではなく、複数の販売代理店と契約することも視野に入れましょう。

手順6:事業を評価する

Go to Market戦略の達成度を可視化する際に参考となる指標を設定します。以下のように様々な指標があるので、プロダクトに合ったものを選択しましょう。

・市場占有率(マーケットシェア)

市場占有率とは、その市場における自社プロダクトが占める割合を示す指標で、「自社の売上÷市場規模×100%」で算出します。

新規参入時に目指す最初の数値は「市場占有率6.8%(※)」で、プロダクトが市場において存在を許されるギリギリの目安だといわれています。市場占有率が高まるほど市場への影響力が大きくなり、顧客への認知度や社会的信用度も上がり、新規顧客の獲得がしやすくなります。

(※)「クープマンの目標値」と呼ばれる市場シェア理論に基づく数値。

・LTV(顧客生涯価値)

LTVとは、「Life Time Value」の略称です。ある顧客が自社プロダクトの利用を開始してから長期的な関係のなかで得られる利益の総額を示しています。

LTVには、顧客獲得単価などの取引コストを考慮する計算式、有期契約を前提とした計算式、割引率を重視した計算式など複数の算出方法があります。代表的な計算方法には「平均顧客単価×平均購入回数」や「平均購入単価×平均購入頻度×平均継続期間」などがあります。

・CAC(顧客獲得コスト)

CACは「Customer Acquisition Cost」を略した言葉です。「顧客獲得コスト」や「顧客獲得単価」を意味し、「顧客獲得費用÷新規顧客獲得数」という計算式を用いて算出します。

CACは企業によって設定基準が異なり、広告費用やマーケティング費用だけを計上するケースや、人件費や外注費用なども含めるケースがあります。前述のLTV(顧客生涯価値)と比較してCAC(顧客獲得コスト)のほうが大きい時は、効率的な顧客獲得ができていない状態だということが分かります。

・NRR(売上継続率)

NRRは、「Net Retention Rate」の略で、既存顧客がサブスクリプション形式のプロダクトに支払っている金額の増減を示します。

NRRの計算には、既存顧客のグレードアップや追加購入による増収、グレードダウンや解約による減収などの数値が必要です。ある一定期間の既存顧客における売上継続率を求める計算式は、「NRR = (純経常収益額 - グレードダウンや解約による損失額 + アップグレードや追加購入による売上額) / (基本経常収益額) × 100」となります。ここで「純経常収益額」は特定の期間に既存顧客によって生み出されたいわゆる「既存の売上」を、「基本経常収益額」はその期間の開始時点までに、同じ既存顧客によって生み出されていた売上をいいます。前月や前年と比較し、NRRが100%を上回っている場合は、継続的な売上が見込める状態です。

・ARR(年間経常利益)とMRR(月間経常利益)

ARRは、「Annual Recurring Revenue」の略で「年間経常収益」を意味しており、MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略で「月間経常収益」を意味しています。MRRの計算方法は、「月間利用料×顧客数」で、ARRは「MRR×12ヵ月」もしくは「過去12カ月のMRRの合計」で算出します。

どちらも、サブスクリプション形式の契約によって繰り返し得られる収益を示しています。将来の収益予測、収益性や成長率の把握ができるため、事業の健全度合いを測る物差しとしても有効です。

手順7:評価に基づいて改善する

最後に、Go to MarketもPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)といったPDCAを回すことが重要です。事前に設定した指標に基づいて評価を行い、必要に応じて改善を繰り返して戦略を最適化していきます。

Go to Market戦略を策定して新規市場の開拓を成功させよう

Go to Market戦略は、顧客に自社プロダクトを届けるための戦略です。ターゲットを明確にし、顧客視点のベネフィットを具体的に考えることが、成功に導くポイントとなります。新規市場の開拓を検討している企業は、本記事の策定手順を参考にGo to Market戦略の策定を検討してみてはいかがでしょうか。

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