スタートアップスタジオとは? 起業のためのリソースを調達できる仕組みと国内事例
(画像=SummitArtCreations/stock.adobe.com)

スタートアップスタジオは、起業やイノベーションを支援する組織です。近年、国内でも注目されており、すでに自治体や大学による支援例も見られるようになりました。

従来の方法と比べて、スタートアップスタジオでの起業にはどのような魅力があるのでしょうか。本記事では、スタートアップスタジオの概要や仕組み、国内事例などを紹介します。

目次

  1. スタートアップスタジオとは
  2. スタートアップスタジオの3つの役割
  3. スタートアップスタジオに求められる人材像
  4. スタートアップスタジオの国内事例
  5. スタートアップスタジオの考えを取り入れたCACの新規事業開発本部
  6. スタートアップスタジオで新規事業創出を目指そう

スタートアップスタジオとは

スタートアップスタジオとは、主に資金面や人材面を中心に、新規事業の立ち上げを支援する組織です。アッティラ・シゲティ氏(※)の著書である『STARTUP STUDIO 連続してイノベーションを生む「ハリウッド型」プロ集団(2017年)』の中では、「同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織」とも紹介されています。

(※)世界中のスタートアップスタジオを調査している、ドルッカ・スタートアップスタジオのCOO(最高執行責任者)。

スタートアップスタジオの中には、経営のプロやエンジニア、デザイナー、マーケターなどの各専門家が集まっています。また、資金調達面でもサポートを行っているため、起業に必要なリソース(ヒト・ノウハウ・カネ)がそろっている環境で、新規事業立ち上げやイノベーションを目指すことができます。

スタートアップスタジオ

ベンチャーキャピタルとの違い

ベンチャーキャピタル(VC)とスタートアップスタジオは、起業家との関わり方や支援内容が異なります。

投資会社であるVCは、出資や融資、アドバイスなどを行うことで、起業に必要なリソースやノウハウを提供します。一方で、スタートアップスタジオは起業を直接的にサポートしており、起業家と協力しながら事業を立ち上げます。スタジオによっては、創業経験がありつつ、社員として働くメンバーも見られます。

まとめると、VCは外部から支援を行う組織、スタートアップスタジオは内部から起業を支援する組織ということができます。

スタートアップスタジオのメリット

スタートアップスタジオを利用するメリットは、起業や事業成長のスピードを早められる点です。

前述の通り、スタジオ内には各分野の専門家がそろっているため、必要な人材をスムーズに確保できる可能性があります。事業立ち上げやビジネスモデルの構築を進めていく中で必要なノウハウを共有してもらえることもあるでしょう。

また、資金調達先の紹介や相談、直接的な出資のサポートもあり、自己資金の負担を減らせる可能性がある点もメリットと言えます。人材面・ノウハウ面・資金面からサポートを受けられるため、個人でゼロから始める場合と比べて起業をスムーズに展開しやすくなります。

スタートアップスタジオのデメリット

スタートアップスタジオではリソースの提供を受けられる代わりに、30%~80%の株式を放出する必要があります。創業者の株式持分が相対的に下がるため、イグジットをしたときの創業者利益は減り、場合によっては経営の自由度が下がることもあります。

アッティラ・シゲティ氏の著書によると、スタートアップスタジオが獲得する株式比率の平均は50%とされています。ただし、実際には資金の必要性に応じて株式持分をコントロールできるため、必ずしも創業者の株式持分が大きく下がるとは限りません。

なお、創業メンバーの株式持分が下がる点は、社内起業でも同じです。社内起業メンバーにビジネス経験があったとしても、新規事業の立ち上げやイノベーションのハードルは高いため、不足しているリソースや支援を母体となる会社から受けるのが一般的です。リソースや支援を受けた分、スピンアウトした場合の社内起業メンバーの株式持分は下がります。

スタートアップスタジオの3つの役割

世の中の起業家は、スタートアップスタジオをどのような目的で利用するのでしょうか。ここからは従来の起業形態との違いに着目して、スタートアップスタジオの3つの役割を紹介します。

1.ノウハウの共有とナレッジの蓄積

多様な人材がそろうスタートアップスタジオでは、異分野間でのノウハウ共有や、ナレッジの蓄積が行われています。様々な業界から人が集まっているため、マーケティングやテクノロジーの情報、異なる業界の意見や学術的な知見などを得ることができるでしょう。

また、スタジオによっては参加者同士の交流会や、有望なスタートアップとのマッチング支援なども行われています。人的資本が充実しているため、起業家にとっては事業化のスピードアップを図りやすい環境です。

2.起業経験者の情報網と人脈

スタートアップスタジオのメンバーには、起業経験者がそろっています。アイデアを形にすることはもちろん、人材管理やピボット(別分野への切り替え)の見極め、失敗・リスクへの対処などに長けているため、起業そのものや成長に必要なノウハウも入手できるでしょう。

中には広いネットワークを活かして、業界の最新情報をセミナーや勉強会という形で提供するスタジオや、起業家同士の人脈形成を支援してくれるようなスタジオもあります。

3.スムーズな資金調達

スタートアップスタジオは資金調達もサポートしてくれるため、起業家は本業に専念しやすくなります。

本来、銀行やVCなどから資金調達を受けるには、資金調達のための各種書類の作成や金融機関との人脈の構築に注力しなければなりません。特に多くの設備投資や運転資金が必要になる場合は、資金調達が起業の重要テーマになるでしょう。

その点、スタートアップスタジオでは資金調達のサポートに加えて、直接的な出資も受けられます。スタジオには、外部のVCや個人投資家とのネットワークがあることも多く資金調達がスムーズになる可能性もあります。

スタートアップスタジオに求められる人材像

起業を目指してスタートアップスタジオに参加できたとしても、スタジオ内のリソースを自由勝手に使えるわけではありません。スタジオのリソースを上手く活用し、起業や成長のスピードアップを図るには、起業家とスタジオは相互利益の関係になる必要があります。

ここからは、スタートアップスタジオに求められる起業家の人材像を紹介します。

事業立ち上げ経験がある、もしくはそれを目指すスペシャリスト

スタートアップスタジオに参加する起業家は、複数のチームや組織を動かしながら、新しいビジネスを形にしていきます。そのため、1つの分野に精通しているスペシャリストというだけではなく、事業立ち上げ全般の経験も求められます。

具体的には、プロジェクト管理や人材採用などのスキルは必要になると考えられます。また、外部の投資家やメディア関係者とのコミュニケーション能力、最新のトレンドを取り込むビジネス感覚なども必要でしょう。

最初から完璧な起業家であることは難しいですが、スタートアップスタジオ側に「支援したい」「一緒にビジネスを作り上げたい」と感じさせるような資質は求められます。

イノベーションやテクノロジーへの情熱がある

スタートアップスタジオが探しているのは、利益を生みだす事業だけではありません。新しいビジネスの創出も目的にしているため、起業家はイノベーションやテクノロジーへの情熱も求められます。

イノベーションや新たなテクノロジーの開発には、時間と手間がかかります。十分なリソースがあっても、組織全体をうまく回す継続的なリーダーシップや、困難に立ち向かう意思がないと、事業として形にすることは難しいでしょう。

そのため、スタートアップスタジオはイノベーションやテクノロジーへの情熱があって、それによって社会にポジティブなインパクトを与えたいという使命感を持っていることが必要です。

データ駆動型のアプローチが取れる

特にイノベーションを目指すような事業は、様々な壁に直面することが予想されます。イノベーションを起こして事業を形にするまでには一つひとつの課題を乗り越える問題解決力が必須となるため、データ駆動型のアプローチも求められます。

データ駆動型とは、収集したデータを科学的な根拠に基づいて分析し、次のアクションを決める考え方です。新規事業を形にするためには、単純なトライ&エラーを繰り返すだけではなく、分析結果から次のアクションや新しいアイデアを生み出す力も必要になるでしょう。

近年ではIT技術の発達によってデータ収集・分析の手法も変わってきています。最新の手法をインプットして活用できる人材を、スタートアップスタジオでも必要としていると考えられます。

創業者利益より事業のリソースを重視している

前述の通り、スタートアップスタジオでは一定割合の株式を放出する必要があります。創業者として株式を売却することによって得られる利益より、事業を運営するリソースを早期に確保することを重視している起業家がスタートアップスタジオには向いているでしょう。創業者の株式持分が相対的に低くなるというデメリットはありますが、より早く成長するための人材確保やノウハウを得られるメリットがスタートアップスタジオにはあります。

場合によっては株式の買戻条項(※)をつけられることもありますが、一時的に株式持分が減ることは避けられません。また、第三者割当増資などの条件を有利になるように強引な交渉を進めると、スタジオから必要な支援を受けられない可能性も考えられます。

(※)一定の条件を満たしたときに、売却した株式を買い戻せる権利を定めた条項。

創業者として受け取れる利益と起業家として得られる支援の双方のメリットとデメリットを比較した上でスタートアップスタジオの利用を検討してみてください。

スタートアップスタジオの国内事例

利用するスタートアップスタジオによって、起業家への支援内容は変わります。以下はスタートアップスタジオの国内事例です。それぞれの特徴を比較しながら具体的なイメージを掴んでみてください。

STARTUP STUDIO by Creww

様々なスタートアップコミュニティを手がける、Creww株式会社が運営するスタートアップスタジオです。新規事業に関心をもつ会員に向けて、プロジェクトを掲載する形でメンバーを募集できます。

主に、本業を続けながらゼロイチ起業に挑戦する層をターゲットにしているため、就業しながらの利用も可能です。利用料金やマッチング料金が無料なので、コストをかけずにメンバーを募集したい起業家に向いているでしょう(法人向けには有料機能があります)。

メンバーの募集にあたっては、通常の業務委託に加えて、報酬なしのプロボノ(仕事上の専門的なスキルを活かした社会貢献活動)も選択できます。ただし、プロジェクト掲載時には審査が行われるため、事前に審査基準を確認しておきましょう。

参考:Creww「本業を続けながらゼロイチで新規事業をつくろう|STARTUP STUDIO by Creww

Gaiax STARTUP STUDIO

起業家の輩出に力を入れている、株式会社ガイアックスが運営するスタートアップスタジオです。どの年齢層や地域からでも起業を目指せるように、「起業家教育事業」「インキュベーション事業」「投資事業」の3つを展開しています。

例えば、起業家教育事業では小学生から大学生を対象に、起業をテーマにした探究プログラムが提供されています。本プログラムは産学官の連携で運営されており、すでに6,000人以上の参加実績があります。

事業推進や出資はもちろん、ノウハウを学ぶところからサポートしてもらえるため、起業に興味をもった段階から利用を検討できるでしょう。

参考:ガイアックス「Gaiax STARTUP STUDIO

北海道スタートアップスタジオ

北海道庁から受託する形で、株式会社ガイアックスと公益財団法人北海道科学技術総合振興センターが立ち上げたスタートアップスタジオです。道内の学生や若手社会人などを支援する目的で、起業家を育成するためのプログラムを提供しています。

すでにアイデアがある起業家に向けては、最大50万円を補助する事業開発支援も行っています。プロによる個別メンタリングを受けたり、投資家にアピールしたりする機会も提供されています。

将来的に北海道内で起業する意思がある場合は、道外からの参加も可能です。

参考:ガイアックス「Hokkaido Startup Studio

スタートアップスタジオの考えを取り入れたCACの新規事業開発本部

株式会社シーエーシー(CAC)の新規事業開発本部は、新しいプロダクトとサービスの創出に取り組んでいる部署です。

プロダクトオーナー(各事業のリーダー)が社内・社外のリソースを活用して、新規事業の構築・グロースを進めていく環境がスタートアップスタジオに類似しています。CACにはR&D(研究開発)を行っているR&D本部もあり、そことのコラボレーションで先端技術を用いた新規事業の開発も行っています。

現状、取り組んでいる新規事業は複数あり、中には音声感情解析AI『Empath』や、就職活動などの面接練習ができるアプリ『カチメン!』があります。

新規事業開発本部長へのインタビューはこちら

スタートアップスタジオで新規事業創出を目指そう

スタートアップスタジオは、起業に必要なリソース(ヒト・ノウハウ・カネ)を効率的に獲得できる場です。スタートアップスタジオ自体のネットワークや知名度を営業やマーケティングに活かす方法もあります。

ただし、スタートアップスタジオが求める起業家像や新規事業の形というものもあります。起業家は、スタートアップスタジオで求められることを整理し、自身が実現したい新規事業の魅力を十分にアピールすることで、理想の起業環境を整えていきましょう。