姿勢推定とは、主に関節の位置から姿勢を推定する技術です。従来、姿勢を推定するには専用のスーツやマーカーが必要でしたが、技術の発展により動画や画像を撮影するだけでできるようになりました。
本記事では、姿勢推定の活用シーンや手法を解説。介護・医療、スポーツ、製造業など幅広い事例も紹介します。
姿勢推定とは
姿勢推定とは、動画や画像から肩やひじ、ひざなどの位置を解析し、姿勢を推定することです。「姿勢検出」や「骨格推定」と呼ばれることもあります。動画に対して姿勢推定を行うことで、動作に関する詳細な情報も入手できます。
姿勢推定は、様々な業界での活用が期待されています。例えば、以下のような業界での活用が考えられます。
<姿勢推定を活用できる場面>
・スポーツ業界:アスリートのパフォーマンス向上
・介護・医療業界:リハビリの進度評価
・製造業界:熟練工の技術のデータ化
・警備業界:公共空間における異常行動の検出
これまで、姿勢や動作をデータ化するには、マーカー付きのスーツや専用のセンサーが必要だったため、簡単に計測することができませんでした。しかし、最近の姿勢推定では動画や画像だけで解析ができ、特別な機器は不要です。スマホやカメラさえあればデータが揃い、これまでより姿勢や動作のデータ化が容易になりました。
後述の「姿勢推定のサービス事例8選」にて紹介しますが、姿勢推定を活用したサービスはすでにいくつも登場しており、商用利用されている例もあります。今後も新たな業界で姿勢推定が活用されると思われます。
姿勢推定の活用シーン
ここでは、前章で例示した姿勢推定の活用シーンをより詳しく解説します。
技術伝承
姿勢推定を利用して頭や手、腕などの動作を記録することにより、「動きを伴う技術」をデータ化することができます。動作を定量化できるため、そのデータを活用することで、感覚的な指導ではなく、理論的な指導ができるようになります。姿勢推定を活用した技術伝承は、製造現場やスポーツ、芸能などの業界で活用可能です。
業界 | 活用例 |
製造現場 | 熟練工の高度な技術のデータ化 新人への技術研修 |
スポーツ | プロとアマチュアの比較 動作修正によるパフォーマンス向上 |
芸能 | 舞踏・演劇の技術向上 |
また、動作を一度データ化してしまえば、システム上で何度でも確認できるため、プロなどの熟練者の実演は一度で済みます。効果的な技術伝承が実現し、教育コストを下げることもできます。
動作解析
姿勢推定をすると、姿勢がデータとして得られるため、測定した本人でも客観的に動作を解析できます。例えば、足が速い人と遅い人の動作を比較してその差を抽出すれば、足が遅い人に足りない要素を定量化できるでしょう。
また、動作解析をすれば、関節の回転力や重心の位置なども算出できます。動画や画像を見ただけではわからない情報も入手でき、従来よりも高度な分析が可能です。
健康管理
姿勢推定を医療やヘルスケアに活かすことで、健康管理に役立てることが可能です。例えば、リハビリの経過観察や健康指導、姿勢の改善に活用できます。
姿勢推定では、関節の動きや姿勢の改善を数値やデータで得られるため、症状の経過を定量的に判断できるようになります。これにより、従来よりも的確なリハビリや健康指導ができるようになります。
警備・監視
姿勢推定を警備や監視に取り入れることで、防犯につなげることも可能です。例えば、学校や駅の防犯カメラに、不審者がよく取る姿勢や動作を学習させたAIカメラを導入すれば、危険因子への事前対処が可能になります。
危険因子の予測は人が関与する必要がないため、監視業務の省力化にもつながります。また、姿勢推定技術で監視できるようになれば、人が直接カメラのデータを確認する必要がなくなり、プライバシーを保護した警備・監視が実現します。
複数人の姿勢推定のアプローチ方法
複数人の姿勢を推定する際には、それぞれの人物を推定する必要があります。その方法には「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2種類があります。
トップダウン型
トップダウン型では、以下の順序で姿勢を推定します。
- 物体検知により人物の領域を特定
- それぞれの人物のキーポイント(主に関節の位置)を推定
- キーポイントをもとにそれぞれの人物の姿勢を推定
トップダウン型は、はじめに人物の領域を特定してから、それぞれの人物の姿勢を推定するため、精度の高い姿勢推定が可能です。しかし、物体検出と姿勢推定の両方を行うため、計算量が増えて処理速度が遅くなるという欠点があります。そのため、速度よりも高い精度が必要な用途に向いている方法といえます。
ボトムアップ型
ボトムアップ型では、以下の順序で姿勢を推定します。
- 全ての人物のキーポイント(主に関節の位置)を推定
- キーポイントをもとに全ての人物の姿勢を一度に推定
ボトムアップ型は人物の領域を特定せず、一度に複数人の姿勢を推定します。人物の領域を特定しないため、トップダウン型よりも精度が低くなる傾向にありますが、処理速度は速い傾向にあります。
姿勢推定のサービス事例8選
姿勢推定の技術を用いたサービスは、すでに様々な業界で提供されています。ここでは、以下の業界のサービス事例について2つずつ解説します。
・介護・医療業界
・スポーツ業界
・製造業
・アプリケーション開発業
介護・医療向けのサービス事例
姿勢推定では、行動や健康状態を把握できるため、介護・医療業界でも活用が進められています。具体的には、以下のようなサービスが提供されています。
- 医療現場の転落転倒防止
- 在宅リハビリ支援サービス
・医療現場の転落転倒防止/株式会社シーエーシー
株式会社シーエーシーが提供する『mamoAI(まもあい)』は、転倒や転落の危険性が高い姿勢を検知し、事故が起こる前に画像やアラートで通知するサービスです。従来の転倒を検知するサービスは、離床や転倒そのものを検知するため、通知があったときには既に事故が発生している状態でした。
『mamoAI』は転倒や転落の危険性が高い姿勢を検知するため、事故を未然に防ぐことが可能です。これにより、これまで対策が難しかった転倒や転落の予防ができるようになります。
転倒前後の状況は録画として残せるため、原因究明や再発防止策の立案もできます。また、職員が閲覧する動画の被写体はモザイク加工されるため、プライバシーも保護されます。
参考:株式会社シーエーシー「mamoAI(まもあい)」
・在宅リハビリ支援サービス/株式会社ワイズ
エムスリー株式会社と同社のグループ会社の株式会社ワイズ、ソニーグループ株式会社が共同で開発した「リハカツ」は、姿勢推定技術により運動を評価する在宅リハビリ支援サービスです。スマホでトレーニングの様子を撮影すると、姿勢推定技術によりリハビリ中の姿勢を推定・評価できるようになります。
自宅でも簡単に体の状態を評価できるため、時間や距離などの問題でリハビリセンターへの通所が難しい方でも、自宅でのリハビリが可能になります。また、プランによっては、理学療法士からビデオやチャットでサポートを受けられます。
参考:株式会社ワイズ「リハカツ」
スポーツ向けのサービス事例
姿勢推定で得られるデータは、アスリートの能力や状態の把握に役立てられるため、スポーツ業界でも活用が進められています。具体的には、以下のようなサービスが提供されています。
- 動作解析による選手の能力強化
- 理想のフォームをデータ化
・動作解析による選手の能力強化/株式会社ACES
株式会社ACESが株式会社電通と株式会社GAORA、株式会社共同通信デジタルと共同で提供するDeep Nineは、野球選手の身体情報を取得分析するアプリケーションです。姿勢推定を活用してパフォーマンスの向上を目的とした動作解析を行えます。
これまで、投球のフォームは体に身に付けるセンサーによって測定していました。同アプリを活用すれば、撮影するだけで姿勢を推定できるため、センサーをつける必要がなくなります。また、より多くのデータを取得できるうえ、試合での体の動きも後から見直すことが可能で、違和感や故障の原因も解析できる確率が高まり、ケガの予防にも活用できます。
参考:株式会社ACES「Deep Nine」
・理想のフォームをデータ化/株式会社ネクストシステム
株式会社ネクストシステムは、様々なスポーツの姿勢推定、データ化を行っています。スポーツ実施時の姿勢を推定することで、効率的なフォーム改善や、ケガのしやすい動作の特定と防止が可能になります。
同社は動作をデータ化するだけでなく、投球動作と投球障害の関連性を解析し、どのような動作がケガにつながるかを導き出しています。これにより、ケガのリスクを低減した的確な指導、サポートができるようになります。
また、姿勢推定をダンスやフィギュアスケート、体操競技などの採点評価に組み込むこともできます。人的ミスが減り、標準化された公平なジャッジができるようになります。
参考:株式会社ネクストシステム「VisionPose/スポーツ分野でのフォーム解析や採点評価に活用」
製造業向けのサービス事例
姿勢推定は、動作を伴う作業状態を把握できるため、製造業でも活用が進められています。具体的には、以下のようなサービスが提供されています。
- 組み立て作業の分析
- 人の動態から作業内容を推定
・組み立て作業の分析/株式会社日立産業制御ソリューションズ
株式会社日立産業制御ソリューションズは、組み立て作業の分析に利用できる姿勢推定システムを開発しています。
同社のシステムは、「姿勢推定」「領域推定」「背景推定」「オブジェクト検出」の4つの分析モデルを組み合わせて作業効率を測定しています。これにより、従業員の作業を適切に評価できるようになり、品質のばらつきや生産計画の遅れなどの原因究明ができるようになります。
遅れの正確な原因を究明できれば、最適な改善案を提示できるようになり、作業品質の向上や業務効率化が実現します。また、安全性に欠ける姿勢を検知したときにアラートを出すことで、労働災害の低減も可能になります。
参考:株式会社日立産業制御ソリューションズ「AIによる人物姿勢・動作認識ソリューション」
・人の動態から作業内容を推定/株式会社インテック
株式会社インテックは、作業者の姿勢情報から効率性や品質を推定するシステムを構築しています。現在は実証段階ですが、実現すれば効率性や品質に関わるデータの自動収集や暗黙知とされている技術のデータ化、作業手順の自動確認などができるようになります。
これまで長年稼働している工場では、作業の属人化やブラックボックス化により、非効率なまま作業が進行してしまっていることがあります。同社が開発するシステムを活用すれば、作業の“見える化”が図れるため、現状把握や作業内容の共有が容易になり、非効率化のリスクを抑えられます。
また、画像を活用すれば、作業効率だけでなく、作業者の健康状態やスキルなどもデータ化して分析可能です。活用次第では、健康増進やスキルアップにも役立てられるでしょう。
参考:株式会社インテック「AIで人の動態から作業内容を推定し、製造業の生産性を可視化する実証実験を開始」
姿勢推定を使ったアプリケーション開発者向けサービス事例
姿勢推定を自社のサービスに組み込める、開発者向けのサービスも提供されています。具体的には、以下のようなサービスがあります。
- 複数人同時にリアルタイムで姿勢推定
- 姿勢推定による動作解析APIプラットフォーム
・複数人同時にリアルタイムで姿勢推定/株式会社ユーザーローカル
株式会社ユーザーローカルは、複数人の姿勢を同時に推定するシステムを開発しています。同システムでは、スポーツや教育、防犯などの様々な分野で活用が進められています。
先述の通り、複数人の姿勢を推定するには、物体検出や複雑な計算が必要です。しかし、同社のシステムを活用すれば、複数人の姿勢推定をリアルタイムで処理できます。
リアルタイム処理が可能になることで、アバター撮影が必要なVTuberのライブや、迅速な対応が求められる防犯にも活用できるようになります。Webカメラのみで利用でき、姿勢推定を簡単に導入できます。
参考:株式会社ユーザーローカル「姿勢推定AI」
・姿勢推定による動作解析APIプラットフォーム/株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ
株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズの「AnyMotion」では、動画や画像から得たデータから、姿勢推定や動作の解析ができます。マーカーやセンサーが不要であり、画像または動画のデータがあれば解析できます。
解析の指定や既存アプリへの組み込みが簡単にできるので、それぞれのビジネスに最適な姿勢推定アプリやシステムが開発できます(現在はサービス終了)。
参考:株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ「AnyMotion」
姿勢推定は様々な業界で活用が進められている
これまで姿勢を推定するには専用のスーツやマーカーが必要でしたが、今では動画や画像から姿勢や動作を推定できます。また、安価に利用できるサービスも増えています。
日本には「情報セキュリティ・プライバシーの不安」「デジタルへの抵抗感」「費用が高い」などの理由でデジタル化が進んでいないケースが多く見受けられます。しかし、技術の発展により、安全性・使いやすさ・コストに優れたシステムが提供され始めています。
上記の事例も参考に、姿勢推定をはじめとした高度な技術を自社で活用できないか、検討してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】