バリューチェーン分析とは? 経営資源を最適化するプロセスと業界別の事例を紹介
(画像=Sohail/stock.adobe.com)

「価値連鎖」と訳されるバリューチェーン分析は、自社の強み・弱みを分析して競合他社と差別化を図るためのフレームワークです。

活用することで一つひとつの企業活動が生み出す価値を把握でき、経営資源の最適化につなげられます。

本記事ではバリューチェーンの概要に加えて、分析の手順やポイントを解説。業界別の事例も紹介します。

バリューチェーン分析は経営資源の最適化に役立つ

自社のバリューチェーン分析を行うと、一つひとつの企業活動にかかるコストや生み出す価値、強み、または弱みを把握できます。

そのうえで、「価値の最大化」と「コストの削減」を意識しながらリソースを振り分けることで経営資源を最適化できる可能性があります。

現代のビジネス環境は変化が激しいため、そのときの状況に合わせて経営資源を再分配することが重要です。他社にはない強みに多くのリソースを投下できれば、持続的なビジネスを確立できる可能性が高まるでしょう。

バリューチェーンとは

バリューチェーン(Value chain)とは、企業活動全体の流れを「価値の連鎖」として捉える考え方です。

米国の経営学者であるマイケル・ポーター氏が提唱したフレームワークで、自社の競争優位性を高める目的で活用されています。

製造業を例にすると、製品がユーザーの手元に届くまでに「調達」「製造」「出荷」などのプロセスがあります。バリューチェーンの基本的な考え方は、これらの活動が生み出す価値を把握し、それぞれが最終的な付加価値(利益)にどれだけ貢献しているかを可視化することです。

サプライチェーンとの違い

サプライチェーン(Supply Chain)も企業活動におけるフローを表す概念ですが、バリューチェーンとは分析の目的や視点が異なります。

「供給連鎖」と訳されるサプライチェーンは、商品・サービスがユーザーに届くまでの流れを表したものです。

自社の一つひとつの活動ではなく「供給の流れ」に焦点を当てています。全体の流れを俯瞰的に分析することで、供給ネットワークを構成する複数の企業や事業主体の企業活動の効率化やコスト削減を図ります。

バリューチェーンサプライチェーン
日本語訳価値連鎖供給連鎖
分析の目的優位性の構築効率化やコスト削減
焦点各活動が生み出す価値供給の流れ
分析の対象企業内部の活動外部も含めた供給ネットワーク

なお、サプライチェーン全体で情報共有を行い、各プロセスの最適化を図る施策は「サプライチェーンマネジメント(SCM)」と呼ばれています。

バリューチェーンの構成要素

バリューチェーンの考え方は、前述したマイケル・ポーター氏の著書「競争優位の戦略」で紹介されています。

ポーター氏によると、バリューチェーンを構成する企業活動は「主活動」と「支援活動」に大別でき、それぞれの活動は以下の要素で構成されています。

主活動:購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスなど
支援活動:全般管理(インフラストラクチャー)、人事・労務管理、技術開発、調達など

主活動とは、商品・サービスをユーザーに届けるプロセスに直接関わる活動です。各活動(上記の購買物流や製造など)にどのような業務が該当するかは、提供するプロダクトやサービス、業種によって異なります。

また、「支援活動」は主活動を補助する活動のことで、例としては採用活動や人材教育などの人事管理、資材選定やサプライヤー管理といった調達活動などが挙げられます。

バリューチェーン分析の手順

バリューチェーン分析の効果を高めるには、正しい手順で分析を行う必要があります。

1.主活動と支援活動を洗い出す
2.活動別にコストを整理する
3.活動別の強みと弱みを分析する
4.VRIO分析で強みを評価する
5.経営資源を再分配する

ここからは各手順に分けて、分析の流れやポイントを解説します。

1.主活動と支援活動を洗い出す

最初のステップは、分析をする企業活動の全業務を洗い出し、主活動と支援活動に分類する作業です。主活動と支援活動を分類したら、各活動にどのような優位性があるかを書き出していきます。

実際に、クラウド型のストレージサービスを提供するビジネスを想定して、主活動と支援活動を洗い出してみましょう。

<主活動>
購買物流:サーバー機器やネットワーク設備の調達、インフラの整備など。
製造:システムの開発、暗号化や復号化技術の確立、パフォーマンスの最適化など。
出荷物流:低遅延でのデータ提供、データアクセスの効率化など。
販売・マーケティング:広告・宣伝、料金プランの設定、公式サイトの運営など。
サービス:顧客サポート、アップデートの提供、サービスの拡張など。

<支援活動>
全般管理:法令への対応、財務管理、サービスの戦略立案など。
人事・労務管理:専門スタッフやサポートスタッフの採用・育成、評価システムの構築など。
技術開発:新しい暗号化技術やAI機能の開発、サービスの高速化など。
購買:スタッフの業務用パソコンや事務用品の購入、オフィスの契約など。

各活動を洗い出すことに加えて、それぞれがどのように連携しているかまで分析すると、企業活動の全体像を把握しやすくなります。

2.活動別にコストを整理する

次のステップでは、各活動(主活動と支援活動)にかかるコストを細かく分析し、担当部署と併せて表などにまとめます。コストについては間接的にかかる費用も含めて、四半期分または1年分の金額を記載しましょう。

表計算ソフトなどを使って以下のようにまとめると、各活動にかかっているコストがわかりやすくなります。

活動担当部署年間のコスト
サーバー機器の調達購買事業部○○万円
インフラの整備情報システム部△△万円
システムの開発システム開発部□□万円

このステップでは単にコストを書き込むだけではなく、「どういったコスト要因があるか」「各コストがどのように連携しているか」まで分析することが重要です。コストの内訳や関連性を深堀りすると、削減可能なコストを見つけやすくなります。

3.活動別の強みと弱みを分析する

コストの整理が終わったら、競合他社と比較しながら各活動の強みと弱みを分析します。強みと弱みの判別方法は、以下の通りです。

強み:付加価値を生み出している要因、他社より優れている要素
弱み:付加価値の減少やコスト増につながっている要因、自社の課題や改善点

担当部署だけで分析を行うと、希望的観測や主観的な意見が混ざってしまうかもしれません。そのため、さまざまな部署から多様な人材を集めて、客観的な視点で分析する体制を整えましょう。バリューチェーン分析が得意なコンサルタントに加わってもらうのも一つの方法です。

参考:新規事業開発にコンサルティングは必要? 依頼するメリット・デメリット

4.VRIO分析で強みを評価する

次は、前のステップで洗い出した強みに対してVRIO分析を行います。VRIO分析とは、「経済的価値・希少性・模倣可能性・組織」の観点から、経営資源のステージ(競合優位性)を分析するためのフレームワークです。

VRIO分析

上図の通り、VRIO分析では自社に4つの質問を投げかけて、競合優位性を5段階で評価します。すべての強みを分析したら、それぞれが該当するステージをまとめておきましょう。

5.経営資源を再分配する

最後はVRIO分析の結果に応じて経営資源を再分配します。再分配の基本的な考え方は以下の通りです。

<競争劣位>
・他社より劣っており、十分な価値を生み出さない状態
・リソースを最小限に留めるか、場合によっては廃止を検討する

<競争均衡>
・他社と同等のレベルにあるものの、優位性は生み出さない状態
・維持できる範囲で最低限のリソースを配分する

<一時的競合優位>
・一時的に優位性があるものの、技術進化や模倣によって競争力を失う状態
・優位性があるうちに積極的にリソースを投下する
・持続可能な競合優位になる可能性がある場合は、追加でのリソース投下も検討する

<活用されない競合優位>
・潜在的な優位性はあるもの、現状では活用されていない状態
・まずは組織の運用体制を整備し、必要に応じてリソースを投下する

<持続可能な競合優位>
・強固なブランド力があるなど、他社が模倣できない優位性を築いている状態
・最優先で集中投資を行う

それぞれの強みのステージを把握すると、上記のようにわかりやすい戦略を立てられます。なお、時間によって分析結果が変わる場合もあるので、業界や市場の予測データ、競合の動向なども踏まえて定期的にVRIO分析をすることをお勧めします。

バリューチェーン分析のポイント

バリューチェーン分析では上記の手順に加えて、「分析のプロセス」や「戦略への活かし方」も意識する必要があります。

以下では3つのポイントに分けて、バリューチェーン分析の精度を高める方法を紹介します。

1.分析結果を可視化・データ化する

バリューチェーン分析の結果は変わることもあるため、見直しやモニタリングは定期的に行う必要があります。データと現状を常に比較できるように、可能な範囲で分析結果は可視化・データ化しておきましょう。

具体的な手法としては、活動別のコストを表計算ソフトで管理したり、変動したコストをグラフ化したりする方法があります。また、VRIO分析の内容もチャートでまとめておくと、変化に気づきやすくなるでしょう。

膨大なデータを直感的に理解しやすくするためにも、分析結果の可視化・データ化は重要なプロセスです。

2.競合他社の分析結果と比較する

バリューチェーン分析は、競合他社の強みや弱みを探すフレームワークとしても役立ちます。自社と競合他社の分析結果を比較すると、強みや弱みがより明確になり、有効な経営戦略を立てられるようになる可能性が高まります。

また、自社のデータだけでは見つけにくい強みを発見できる点も、競合他社と比較するメリットです。

例えば、活動別の強みと弱みを比較してみると、「当初の想定よりも物流コストが低かった」「他社も同レベルで強み(弱み)と言えるほどではなかった」などの発見があるかもしれません。

3.分析結果に応じた戦略を考える

バリューチェーン分析の結果は、経営戦略に反映しないと意味がありません。客観的な視点で結果を受けとめて、経営資源を最適化する戦略まで落とし込むことが重要です。

例えば、特定の活動に優位性が見つかった場合、その領域にリソースを集中的に投下する戦略や、自社独自の強みが見つかるケースでは差別化戦略が考えられます。一方で、どの企業でも多くのコストがかかっている活動については、コストを抑えるコストリーダーシップ戦略が有効になる可能性があります。

得られたデータを丁寧に確認し、「価値の最大化」「コスト削減」につながるような戦略に落とし込んでいきましょう。

業界別バリューチェーンの特徴

分析対象の業界が変わると、バリューチェーンを構成する主活動が変わります。

ここからは情報通信業や製造業、サービス業を例にして、業界別バリューチェーンの特徴を紹介します。

情報通信業(SaaS提供企業)の事例

情報通信業(SaaS提供企業)の事例

情報通信業の中でもSaaSを提供する企業を例にすると、主活動は顧客ニーズの分析から始まります。その分析結果をもとにシステムを設計・開発し、顧客へのサービス提供のためにシステムを運用する必要があります。

また、カスタマーサポートの良し悪しで継続率やアップセル(上位の利用プランへの切り替え)の割合が決まるため、利用状況のモニタリングも欠かせません。モニタリングの分析結果に応じて、機能改善や新機能開発にも注力することが重要です。

製造業の事例

製造業の事例

製造業のバリューチェーンは、原材料や部品の仕入れ(購買物流)から始まります。その後は、仕入れた原材料や部品を使って製品を作りますが、製品自体を創造する「技術開発」も重要です。

技術革新が起こりやすい分野では特に、イノベーションにつながるような研究開発に力を入れる必要があるからです。

その重要性から、設計部門が担当する一連の業務を「エンジニアリングチェーン」として区別して言うこともあります。

サービス業(経営コンサルティング)の事例

サービス業(経営コンサルティング)の事例

経営コンサルティングのバリューチェーンは、顧客の獲得から始まります。顧客と契約を結び、経営課題に対するソリューションを提案します。

顧客の課題によっては、中長期に及ぶソリューションの実行支援も必要です。また、最初に提案したソリューションが実情にあっており、課題の解決につながっているかを判断するため、実行中の効果測定も必要になるでしょう。

効果測定の結果に合わせて、「ソリューションの軌道修正」や「より良いアプローチの提案」などを顧客と継続的に検討することが、契約の継続率や評判に関わってきます。

バリューチェーン分析をプロダクト開発やDX化に活かそう

一つひとつの活動が生み出す価値に焦点を当てたバリューチェーンは、経営資源の最適化に役立つフレームワークです。

自社の優位性や課題、削減できるコストなどを洗い出せるため、うまく活用すれば競争優位な戦略の立案につなげられます。

ただし、希望的観測や主観が入ると正しい結果を得られないため、分析のプロセスやポイントはきちんとおさえることが重要です。多様な人材を集めて分析用のチームを構成し、客観的な視点を多く取り入れてバリューチェーン全体を分析しましょう。

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