研究開発の計画の立て方と進め方、実用化する際の注意点を解説
(画像=Summit Art Creations/stock.adobe.com)

ITの進歩は著しく、国を挙げてのDXが進行中です。ITの進化には、研究開発が欠かせません。企業による研究開発は、社内における知的財産を形成し、競合他社に対する優位性を確保するために必要な投資といえます。

時代の変化が激しく、スピードが求められる現代において、研究開発はどのように進めていけば効率的なのでしょうか。本記事では、研究開発を成功させ、市場における優位性をいちはやく確立するための計画の立て方、進め方、実用化の際の注意点について解説します。

研究開発の計画の立て方

研究開発(R&D)を進める際は、まず目的の設定が必要です。目的は「なぜ取り組むのか」「なにをゴールにするのか」などと言い換えられます。目的の設定ができていないと、研究開発によって成果が生まれても評価をすることができません。次に目的を達成するために必要な目標を設定し、計画を立てていくことになります。

解決すべき課題の優先順位の付け方

まず目的を設定し、目標を立てます。そして、その目標を効率的に達成するためには取り組むべき課題を明らかにして、優先順位を決めることが重要です。

優先順位を決める際は、課題を緊急性と重要性に分けます。緊急性は早く解決しないと業績に影響を与える課題かどうかで、重要性は解決しないと業績に影響を与える度合いが大きいか小さいかを意味します。それぞれを掛け合わせ、以下のように4項目に整理することができます。

  • 緊急性が高い×重要度が高い
  • 緊急性が高い×重要度が低い
  • 緊急性が低い×重要度が高い
  • 緊急性が低い×重要度が低い

まずは「緊急性が高い×重要度が高い」に分類される課題から優先して解決していくことになります。

技術動向のモニタリング

技術は日々進歩しており、研究開発の優先順位にも影響を与えます。そのため、研究開発を進める中では技術動向のモニタリングを行い、状況に応じて優先順位の再設定を行う必要があります。

技術開発が進んだことで実現不可能と考えられていたことが実現可能になるときもあります。モニタリングを通じて最新技術を取り入れ、より革新的な研究開発に取り組めることもあるでしょう。

また、自社で研究開発を進めていた技術の実用化が、他社に先を越されることによって、今まで費やした研究開発費がムダになる可能性があります。それも、最新技術の動向をモニタリングできていれば、損失を最小限に抑えることができます。

研究開発テーマの創出

ここまで研究開発の優先順位付けとモニタリングの重要性について解説しました。次に研究開発を進めていくために必要となる、具体的なテーマの設定について説明します。研究開発テーマを創出する方法としては、主に以下の3つが挙げられます。

  • 用途探索
  • バックキャスティング
  • 潜在ニーズの発掘

用途探索とは、特定の技術の使い道(用途)を他の領域に広げることです。自社の技術をもとにした研究の他に、特許情報や学術情報(学術研究の成果)を活用した技術の用途探索もあります。

バックキャスティングとは、正解が存在しない課題やテーマに対して、まずは「目指すべき未来」「未来のあるべき姿」を想像し、そこから逆算して現在行うべき活動を考える手法です。例えば、2030年の未来に向けて、必要な技術は何かと仮説を立てた上で、テーマを決めることになります。

潜在ニーズの発掘とは、顧客の悩みや課題を踏まえて、研究開発のテーマを決める方法です。日常的にコミュニケーションが取れている顧客から、売上に直結する研究テーマのヒントを得られることもあります。

これらの方法でテーマを洗い出すことができたら、目的や目標に合致しているのかを精査し、計画に落とし込んでいきましょう。

AI関連の研究開発を行なっているR&D本部長インタビュー>>

研究開発プロセスの最適化

研究テーマを決定し、実際に研究開発を進める中で、そのプロセスを最適化できると、成果を出すまでにかかる時間の短縮や様々なコストを抑える効果が期待できます。ここでは、2つの視点からプロセスを最適化する方法を解説します。

アジャイル開発の採用

アジャイル(agile)は直訳すると「素早い」「機敏な」という意味で、アジャイル開発は「計画→設計→実装→テスト」という小さいサイクルを繰り返すことが最大の特徴です。

開発の途中で仕様変更が生じることが前提で、優先度の高い要件から開発を進めていくため、仕様変更にも強い開発手法です。ソフトウエア開発の手法として使われてきたアジャイル開発は、プロダクトを素早くリリースできることなどいくつものメリットがあり、研究開発などにも導入されるようになりました。

企業の研究開発においては、デジタル技術の進展や社会課題の複雑化による事業環境の変化が激しいため、当初に予定していた成果を出しても時代遅れになってしまう可能性があります。

アジャイル開発を導入して、研究開発の成果を素早くプロダクトに落とし込んで想定ユーザーに提供することで、開発の中途段階でフィードバックをもらうことができます。そのフィードバックと検証を繰り返し、方向性を調節して進めることができます。

共同研究とパートナーシップの強化

研究開発のスピードを上げていくためには、他社や学術機関との連携が有効になる場合があります。いわゆる、「共同研究」や「パートナーシップ」という形態をとることです。

自社にはない視点や知識、経験を取り入れて、外部の専門知識や技術を活用することで、研究開発の範囲を拡大できます。研究過程では、新たなアイデアや研究に対する見解が共有されて、お互いの技術者に知見が蓄積されていきます。今までの方法では考えられなかったような新しいアプローチを生み出すきっかけとなる可能性があります。

共同研究とパートナーシップには、研究開発の効率が向上するといった利点があります。パートナーがそれぞれの強みを活かして協力することで、研究開発のリソースが重複することを避けられます。パートナー同士の協力体制を築くことができれば、1つのプロジェクトに投資する資金や人的リソースを互いに節約することができます。

研究開発の成果を実用化する際の注意点

企業の場合、研究開発の成果は、売上につなげる必要があります。ここでは、研究成果(知的財産)が生み出す価値をどのようにビジネスにしていくのかを解説します。

成果の評価

企業の研究開発は、将来のための投資であり、多額の資金をかけて行われます。そのため、成果に対して投資した金額分の価値があるのかどうかを以下の視点から検証する必要があります。

  • 技術の完成度
  • 競争優位性
  • 自社の戦略との整合性
  • 将来の収益性
  • 投資利益率

上記のような視点から研究開発の成果を評価することによって、費用対効果を計測できます。また、取り組む研究内容によっては投資回収の観点だけでなく、論文発表や特許取得なども含めて複合的に評価できる研究開発もあるでしょう。

成果を評価したら次は、商業化プロセスに移ります。技術の成熟度、市場での需要、競合状況など、多くの要因を考慮し、ビジネスモデルの開発に注力しましょう。

また、技術開発の出発点が、顧客の課題を解決するためであった場合もあります。この場合、開発の早い段階から顧客との連携や巻き込みを模索する必要があります。

研究開発の成果を保護する特許

特許とは、新たな発明を保護する制度で、特許権者は定められた一定期間、発明によって生まれた物の生産や技術の使用を独占できます。特許権は特許庁に登録することで発生する発明を保護するための権利です。研究開発によって生まれた成果の中に、「産業上利用できる発明であること」「新規性」「進歩性」などがみられ、誰でも思いつくようなものでなければ認められます。

営業秘密の保護

営業秘密とは、社外に漏れないように管理されている技術(研究成果を含む)または営業に関する情報のことで、不正競争防止法で保護されています。法律で保護されるためには、以下3つの要件を全て満たす必要があります。

  • 秘密管理性:客観的に社外秘だと分かるように管理されている
  • 有用性:研究成果や顧客名簿など、企業活動において重要な情報
  • 非公知性:一般的に入手できない情報であること

これらの要件を満たし、適切な情報管理を行えるようにルールを定めておくことが重要です。

研究開発における著作権

著作権は、著作物を保護するためのに自然に発生する権利です。どこかに登録しなくても権利は存在するものとされています。システムの開発に使われたプログラムも著作権法で著作物であると認められており、その権利は著作者すなわち、そのプログラムを作成した者にあるとされています。

膨大な時間と投資を行って研究開発した成果を、簡単に他社に真似されたのではたまったものではありません。自らの権利を守るためには知的財産に関する知識を身につけて自社で保護していくことも重要です。

まとめ

研究開発は自社の競争力を高める投資で、計画的に行う必要があります。目的・目標を明確に設定し、目標を達成するために解決する必要がある課題を洗い出して、どのような技術を開発できると、どのような課題を解決でき、製品化につながるのかを整理することが重要です。実際に研究開発を進めていくフェーズに入ってきたら、他社との共同研究やパートナーシップも検討し、効果的で効率的な方法を模索していきましょう。

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