R&D投資とは? 国内企業が取り組む必要性と現状の課題
(画像=Kannapat/stock.adobe.com)

R&D(Research and Development)は「研究開発」を表すビジネス用語で、新規事業やイノベーションの創出につながる企業活動です。企業によってはR&D部門を別会社化し、独立した予算や人員、リソースを投入するケースもあります。

先行投資にもあたるR&Dは、すぐに利益につながるものではありません。かけたコストや労力に見合わないこともありますが、持続的な成長を目指す企業にとっては、欠かせない活動の1つといえます。

世の中の企業はなぜR&D投資を行い、どのような形で推進しているのでしょうか。本記事では国内企業の事例とともに、R&Dの種類や必要性、現状での課題などを解説します。

目次

  1. R&Dの3つの種類
  2. 企業がR&Dに取り組む必要性
  3. 企業が抱えるR&Dの課題
  4. R&D部門がある国内企業の事例
  5. R&Dで持続的な成長を目指そう

R&Dの3つの種類

企業のR&Dにはいくつかの種類があり、目的によって役割が異なります。実際にどのような研究開発を行なっているのかを確認していきましょう。

1.基礎研究

基礎研究は、新たな科学技術の発見や、基本原理の解明を目的とした研究です。実用化をすぐに目指すものではなく、通常は成果が表れるまでに長い時間がかかります。

基礎研究で発見されたものは企業の知的財産となり、新規事業を生みだす礎になります。科学的にも大きな価値がある場合、実用化ができなくても多方面から注目されるかもしれません。

2.応用研究

応用研究は、科学技術や基本原理の実用化を目的として行われる研究です。また、すでに実用化されている技術を精査して、新たな活用方法を探すような活動も応用研究と呼ばれています。

応用研究は必ずしも基礎研究の上にあるものではなく、始めから実用的な技術研究が行われることもあります。その結果、新たな基本原理と考えられるものが発見され、基礎研究に進むというケースもあります。

3.開発研究

開発研究は、基礎研究や応用研究によって得た知見をもとに、新たな製品やサービスなどを開発する研究です。既存製品やサービスの改良を目的とした研究も、開発研究の一種に含まれます。

開発研究では成果物の市場への投入を想定するため、研究者にはマーケティングの視点も求められます。市場の特性を踏まえて、顧客課題を解決するプロダクトを開発することが最終的な目標です。

企業がR&Dに取り組む必要性

生産やマーケティングとは違い、R&Dへの投資は必ず利益につながるという活動ではありません。しかし、現代のビジネス環境を考えると、多くの業界でR&Dの必要性は増しています。

ここからは時代背景を中心に、企業がR&Dに取り組む必要性について解説します。

VUCA時代でも競争力を維持するため

企業が競争力を維持するために、R&Dは欠かせないものになりつつあります。

デジタル技術などの進歩によって、現代のビジネス環境は目まぐるしく変化しています。この状況は「VUCA(ブーカ※)」と表現されており、企業にとっては従来の戦略が通用しなくなる状況も出てきました。

例えば、生成AIのように革新的な技術が生まれると、これまで最先端と思われていた製品が、むしろ古いものになるといったことがあります。革新的な技術は新たなビジネスを誕生させると同時に、特定の製品や業界を衰退させる可能性があるため、単一の製品・サービスに依存した企業経営はリスクを孕みます。

このような時代でも競争力を維持するには、新たな技術を発見したり、技術を有効活用したりする必要があり、それが多くの企業でR&Dの必要性を高める要因になっています。

(※)変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取った造語。不確実性が高く、将来の予測が難しい状態を意味する。

持続的な成長や生産性向上を目指すため

企業のR&D投資は、持続的な成長や生産性向上にもつながります。大和総研のレポートによると、R&D投資は生産性に影響を与えています。

推計期間を1994~2019年とした上段のαの数値を見ると、全産業においてR&D資本ストック1%の増加はTFP を有意に0.04%上昇させるという結果が得られた。また弾性値の時系列変化を確認するため、2000~19年に期間を絞って推計した下段を見ると、R&D資本ストックの係数は 0.07%と推計され、2000年代に入ってR&D 投資の効率性が高まったことが示唆される。

引用:大和総研「R&D投資の短期的見通しと中長期的な課題

TFP は「Total Factor Productivity」の略称で、労働や原材料などを考慮した生産性の指標です。企業や社会が抱える生産に必要な設備(資本ストック)の増加によってTFPも上昇しており、R&Dへの投資は生産性向上に一定の効果があることがうかがえます。

知的財産を増やして開発のスピードアップを図るため

競合他社から新しい製品やサービスが次々と登場する現代においては、開発のスピードアップを図る意味でもR&Dに取り組むことが重要です。

通常、R&D部門には専門的な知見をもったスタッフが集まります。このような環境にリソースを投下すれば、有用なデータや技術が蓄積されるため、他社にはない知的財産を増やすことができます。

製品開発や改良のスピードアップを図る上で、このような知的財産は欠かせません。参入する市場や分野によっては、製品を投入するタイミングが少し遅れるだけで、大きな損失につながることがあるためです。

R&D部門が蓄積した知的財産を使って開発スピードが上がることで、先行者利益を得られる可能性が高まります。

企業が抱えるR&Dの課題

ここからは、世の中の企業が抱えるR&Dの課題について解説します。

大きなコストや労力がかかる

R&Dの体制を整えるためには専門の人材、特殊な建物や設備が必要になることがあります。研究開発自体にも費用がかかります。

生産部門や営業部門のように、R&Dは生じたコストを同じ部門の利益で賄うことができないため、小さなランニングコスト(研究設備の維持・管理費用など)も軽視できないものになります。リソースを節約するために、研究設備のリースを活用することも検討しましょう。

デジタル人材の確保が難しい

技術革新やイノベーション創出を目指すようなR&Dでは、高度かつ専門的な人材が必要です。特にデジタル人材(AIやビッグデータ、IoTなどのデジタル技術を理解して活用できる人材)は多分野で重宝されるため、十分なリソースがあっても人材不足に直面する例は少なくありません。

経済産業省の資料(※)によると、デジタル人材を含むIT人材は少なくとも2015年頃から不足しているとされています。2030年には最大79万人が不足すると予想されているため、人材不足に悩まされる企業はますます増えることが考えられます。

十分な知識・技術のあるデジタル人材を確保するには、中長期的な採用計画・育成計画を立てて、早めに取り組むことが重要です。

(※)出典:経済産業省ウェブサイトを加工して作成

自前主義からの脱却が必要になる

自社だけでR&Dを行うと、活用できる技術やリソースが限定されます。他社や他機関と技術提携をしてR&Dを行う企業と比べて、投資効率が悪くなるケースもあるでしょう。自社だけで研究に必要な設備の購入や技術の蓄積を行うのは、技術提携を前提にするより時間と労力がかかります。

もちろん後述する技術流出のリスクなどもあるため、必ずしも自前主義がデメリットばかりでもありません。自前主義のメリットとデメリットを天秤にかけて、自社にとってより良いR&Dの形態を検討しましょう。

技術流出のリスクがある

自前主義からの脱却は1つの選択肢ですが、様々な企業とパートナーシップを結ぶと、関わる人が増えることによって技術流出のリスクが高まります。

R&Dで革新的な技術を開発しても、他社に模倣されると大きな損失につながります。そのため、技術提携などを行う場合は契約内容を慎重に検討し、データの管理方法も予め整備しておく必要があります。知的財産を守るために、特許権や実用新案権、商標権などの出願方針も前もって検討しておきましょう。

R&D部門がある国内企業の事例

実際に技術革新やイノベーション創出を目指している企業は、どのようなR&D部門を立ち上げているのでしょうか。以下ではSI(システムインテグレータ)産業に注目して、R&D部門がある国内企業の事例を紹介します。

コミュニティ型ワークスペースの活用/TISインテックグループ

大手IT企業グループであるTISインテックグループは、2018年にグループ内のR&D部門を結集しました。「グループラボラトリー」として運営されている本拠点では、次世代事業につながる研究開発やPoC(概念実証)が行われています。

特徴としては、コミュニティ型ワークスペースのWeWorkを活用している点が挙げられます。WeWorkには世界中の起業家やスタートアップが参加しているため、連携やコラボレーションを促進する効果が期待できます。

また、国・自治体の研究事業や、大学との共同研究にも積極的な姿勢を見せるなど、活用できるリソースを増やすために様々な工夫がなされています。

参考:TIS「TISインテックグループのR&D部門を結集し、「グループラボラトリー」機能を開設

成長分野にテーマを絞ったR&Dセンター/SCSK株式会社

幅広いITソリューションを提供するSCSK株式会社は、主にOSS(オープンソースソフトウェア)をテーマにしたR&Dセンター(2023年4月に一部機能を技術戦略本部に移管)を運営していました。

研究開発のテーマを絞っている点が特徴として挙げられます。幅広いデジタル分野の中でも、成長分野とされるOSSに特化することで、専門性の高いR&Dの環境が整えられています。

また、OSSやAIなどの技術情報をポータルサイト(テクのまど)で公開しています。対外的なアピールをするだけではなく、本ポータルサイトは社内外のエンジニア同士のつながりを生む役割も担っています。

参考:SCSK「テクのまど

明確なビジョンを設けて社会のために活動/BIPROGYグループ

クラウドサービスなどを手がけるBIPROGYグループは、2006年にR&D部門として「BIPROGY総合技術研究所」を立ち上げています。

本研究所では、主に技術の適用実証研究や社会デザイン研究、先端技術研究が行われています。開設から15年以上が経過し、2023年には論文の受賞歴があります。

社会的に評価されている背景には、本研究所の明確なビジョンがあります。BIPROGYグループはビジョンとして「技術を人類・社会・企業の価値に変え、持続可能なありたい未来を創造する」と掲げており、社会貢献につながるR&Dを根気よく続けています。

参考:BIPROGY「BIPROGY総合技術研究所

次々と新規事業を創出/シーエーシー

独立系SIerである株式会社シーエーシー(以下、CAC)のR&D本部は、AIを含めた様々な技術開発を行なっている部門です。技術の開発だけが目的ではなく、技術を価値に変えていくためにプロダクトに落とし込むことを大切にしています。

すでにR&D本部の技術開発がもとになって生まれた新規事業がいくつもあります。例えば、表情分析AIを使って面接対策を手助けするアプリ『カチメン!』です。このアプリはR&D本部の持っていた技術を活用して、新規事業の開発・運営を行う新規事業開発本部がビジネス化しました。

顧客企業のITシステム開発・運用、DX化を支えることに加え、CAC自身がプロダクト・サービスを持つための応用研究・開発研究をR&D本部が担っています。

CACの技術力を支えるR&D本部の詳細はこちら

R&Dで持続的な成長を目指そう

ビジネス環境の変化が激しくなる中、業界や企業の大小を問わずR&Dの必要性は高まっています。ただしR&Dといっても基礎研究、応用研究、開発研究、どの段階の研究を行うのか、自前主義かパートナーシップか、競争力維持か成長か何を目的に置くのかによって様々な形があります。R&Dが企業の持続的な成長ドライバーになるよう、自社に合ったR&Dの形を模索しましょう。

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