私の現在地

新企画「私の現在地」では、キャリアを通じて感じている、自分は今、目指すべきキャリアのなかで、どこにいるのか、はたまた人生という長いスケールにおいて、どんな場所に立っているのかを見つめます。今回は、入社9年目の水野さんです。

水野ペイン ウイリアム草太(ミズノペイン ウイリアムソウタ)
株式会社CAC identity
2017年、株式会社シーエーシーに新卒入社。金融系の開発現場に配属後、株式会社Blue Labへ出向し新規事業企画に携わる。その後、自社での新規事業としてフィットネス事業を手掛けるが撤退に至る。現在はM&Aやディストリビューション業務に注力しつつ、次なる“ゼロイチ企画”に意欲を燃やす。

渾身のジョークが、最終面接の重圧を笑いに変えた

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――鍛え上げられた体格が目を引きます。まずはご自身のバックグラウンドについて教えていただけますか。

ありがとうございます。母が日本人、父がイギリス人のハーフで、10歳頃までイギリスで暮らしていました。身体づくりは、学生時代に友人の誘いでジムに通い始めてから10年以上続けています。今では週4~5日ペースで通うのが習慣で、ジムに行かないと気持ちが落ち着かないほどです。

――IT業界への関心は、学生時代からあったのでしょうか?

就職活動を進めるうちに、IT分野への関心が高まりました。金融や医療、製造など多種多様な業界に関われる点に大きな魅力を感じたんです。特にCACは社風がフランクで、普段は緊張しがちな私でもリラックスして面接に臨めたことが印象的でした。

最終面接で覚えているのは、「筋トレとシステム開発の共通点」について話したことです。理想の身体をつくる過程は、まず「要件定義」から始まり、トレーニングメニューや食事の計画を「設計」して、実践と検証を繰り返しながら身体の「開発・メンテナンス」をしていく、という私なりの考えを伝えました。まだコードを書いた経験はありませんでしたが、「筋トレというシステム開発はすでに始めています!」と冗談まじりに話し、経営陣の方々の笑いを誘ったことを覚えています。

――入社後のキャリアはどのようにスタートしましたか?

技術的なバックグラウンドがほとんどない状態で、2~3カ月間の研修を経て金融系システムの保守部門に配属されました。ただ、いざ現場に出てみると、研修で得た知識だけでは太刀打ちできず、不安に感じる場面も多くありました。

とはいえ、CACには手厚いサポート体制があり、先輩方が丁寧にサポートしてくれました。また、同期には海外出身者も多く、特にプログラミングに長けたベラルーシ出身の同期は、困ったときにはLINEで的確なアドバイスをくれる心強い存在でした。そんな支えに助けられながら、現場で直面する課題を少しずつ乗り越えていけたように思います。

「プログラミングは自分に向いてないかも……」

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――入社後、特に苦労されたことや転機となった経験について教えてください。

一番苦労したのはプログラミングです。システム開発では、ほんのわずかなミスが後々、大きなトラブルにつながることがあります。実際、お客様先で常駐していた際、自分のケアレスミスでご迷惑をおかけしてしまったことがあって。「自分にはプログラミングは向いていないのかもしれない」と、自信を失いかけた時期もありました。

入社2年目に上流工程に関わる機会を得たことがひとつの転機になりました。要件定義や設計といった工程に初めて携わるなかで、最初は戸惑いもありましたが、小さな要件変更が全体にどう影響するかを細かく紐解いていく過程に、パズルを解くような面白さを感じました。

プログラミングは得意ではないけれど、「何をどう作るべきか」を考え、エンジニアに的確に伝える役割なら、自分に向いているかもしれない。そう思えたことが自信につながり、キャリアを前向きに考えるきっかけになりました。

――その後は、どのようにキャリアを発展させたのですか?

複数の金融機関向けのシステム保守を担当して3年ほどが経ったころ、「そろそろ別のことにも挑戦してみたい」と感じていたタイミングで、株式会社Blue Labへの出向の話をいただきました。

Blue Labは、フィンテック領域を中心に、新規事業の創出やオープンイノベーションを手がける会社です。「ゼロから企画に携われるチャンス」と捉え、迷わず飛び込みました。1年間の在籍中は、ブロックチェーン技術を使った社債の小口発行や、太陽光発電機の証券化プラットフォームなど、先端技術を取り入れたさまざまなプロジェクトに関わることができました。出向期間終了後も別の形でAI-OCRを活用した貿易書類業務の効率化などに携わらせて頂きました。

一方で、新規事業の立ち上げがいかに難しいかも痛感しました。前例も正解もない“ゼロイチ”の領域で、毎回、試行錯誤を重ね、悩みを深めながら、少しずつ道を切り拓いていく。それが新規事業のリアルなのだと、身をもって知りました。

強く感じたのは、「どの企画が当たるかなんて、誰にもわからない」ということ。だからこそ、一度のつまずきで立ち止まってしまえば、可能性はどんどん狭まっていく。逆に、アイデアを出し続けていれば、チャンスは確実に広がっていく。そんな学びを得た、貴重な数年間でした。

迷いを確信に変え、新規事業の“ゼロイチ”に挑む

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――その後、本社に戻り、新しいプロダクトやサービスの開発に取り組む株式会社CAC identityに配属されました。

株式会社CAC identityでは、表情分析AIを搭載した面接対策アプリ『カチメン!』や、介護施設・医療機関向けの転倒検知システム『まもあい』など、さまざまなアイデアが事業化されています。私も、自分発信で事業を立ち上げようと意気込みましたが、アイデアは出るものの、なかなか形にできない。“ゼロイチ”の難しさを、改めて思い知らされました。

そんなとき、伴走してくださった社外コンサルの方から掛けられた言葉が、心に刺さりました。「自分のやりたいことをやればいいんだよ」――それをやりたい気持ちは、心のどこかにずっとありました。でも「本当にそれでいいのか?」と迷いがあったんです。そのひと言に、背中を押されました。

――その後、どのようなテーマで事業化に取り組んだのでしょう?

「やるなら一番好きな分野で勝負しよう」。そう思って選んだのが、フィットネスでした。当時、ジムやフィットネス利用者の7割以上が目標を達成できずに途中退会してしまう現実に課題を感じていたんです。そこに、テクノロジーの力で寄り添えないかと考えました。

構想したのは、目標達成までを支えるAIトレーナーです。カウンセリングやフィジカルテスト、パーソナライズされたトレーニングメニューの自動生成、筋量や体脂肪率をリアルタイムで可視化できるボディスキャンなど、すべてをスマホアプリ上で完結させる設計に落とし込んでいきました。

社内の新規事業関連の審査を通過し、プロジェクトは本格始動。ただ、壁打ちを重ねるなかでプロダクトの方向性が定まらなかったり、思うように進まない場面も多くありました。それでも、好きなことを仕事にし、それをゼロから形にしていくプロセスには、これまでにない楽しさと手応えがありました。

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――その挑戦の結果、得られたこと、見えてきた課題は何でしたか?

初年度のKPIは未達で、途中からターゲットを大手企業に切り替え、商談の機会は得られたものの導入には至らず。残念ながら、1年で撤退することになりました。

うまくいかなかった理由はいくつかありますが、特に痛感したのがプロダクト監修の重要性です。実装段階で業界の第一線で活躍されている方とつながり、専門的な視点で協力を得られたことは正解だったと思っています。でも、だからこそ、もっと早くに、構想段階から業界で知見のある方と出会えていれば、結果は違っていたかもしれない。そこは悔しさが残るポイントです。

撤退の報告は、社内の定例会で行いました。部門メンバー全員を前に、事業が立ち行かなくなった理由について資料にまとめ、説明しました。でも、正直、やりたくなかったです。自分の失敗を人前で話すのは悔しいし、勇気がいることですから……。

ただ、「なぜ、うまくいかなかったのか」を他のメンバーに共有することで、同じ失敗を防ぐことができます。それを積み重ねていけば、成功の確率は上がっていくはずです。どこかで誰かが成功できたなら、それはチーム全体の成果になります。失敗も成功も共有し合うことこそ、本当のチームワークなんじゃないか――そう思い直しました。

報告会では、多くの方からフィードバックや励ましの言葉をいただき、そのときは「挑戦して良かった」と思えました。

――最後に、水野さんにとっての「現在地」とは、どんな場所でしょうか?

これまで取り組んできたことが、少しずつ線でつながりはじめている。そんな実感があります。その経験の蓄積を、いつか形に残る成果として結実させたいと思っていますが、ただ、それが何なのかを、いまは模索している途中です。

もちろん、新規事業への意欲は、今も揺らいでいません。撤退を通じて得た学びを、すべて次にぶつけたい。やっぱり、失敗したまま終わるのは悔しいですからね。いつか、「これは自分がやったものだ」と胸を張れるものを形にできればと思っています。

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▼わたしのセーブポイント

何かにつまずいたり、進むべき方向を見失ったりしたとき、ありのままの自分に立ち返ることができる「わたしのセーブポイント」について、教えてもらいます。

もちろん、ジムです。

以前は大胸筋を鍛えるのが一番好きでしたが、ここ1年ほどは脚に注力しています。上半身ばかり強くてバランスが悪かったので、最近は本格的に脚を育てていこうと切り替えました。

トレーニング中は、本当につらい。でも終わったあとの爽快感は格別です。

仕事がうまくいっているときはさらに楽しく感じられるし、気分が沈んでいるときにはリセットしてくれます。嫌なことをぜんぶ汗と一緒に流して、「よし、やるぞ!」って気持ちになれるんです。そんなジムが、私にとってのセーブポイントです。

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