
新しく始まった新企画「私の現在地」では、キャリアを通じて感じている、自分は今、目指すべきキャリアのなかで、どこにいるのか、はたまた人生という長いスケールにおいて、どんな場所に立っているのかを見つめます。第1回は、入社2年目の柳原さんです。
政治経済学部を卒業後、就職活動での紆余曲折を経て2023年に株式会社シーエーシーに新卒入社。120人いる同期のなかで、ただ1人、新規事業開発本部へ配属される。現在は、音声感情解析AI「Empath」のマーケティング担当として、事業推進に取り組む。
疲れ切ってしまった就職活動の苦い経験

――学生時代はコロナ禍でした。振り返ってみると、どんな思いがありますか?
楽しい思い出ももちろんたくさんあります。ですが、今振り返ってみると、むしろ苦い思い出が多いんです。でも、そうした思いが今の私の頑張る力になっています。
とりわけ就職活動に取り組み始めた時は、本当に迷っていました。明確な目標に向かって努力したと言えれば理想的ですが、目指したいものもなく。でも、「何かしなければ」というプレッシャーばかりありました。
大学2年の秋頃に将来何になりたいのかを考え始め、自己分析を書き出してみると、「営業向き」と出るんです。でも、営業はやりたくないなと。そんなとき、自分が褒められることを考えてみると、声、ファシリテーション力、司会をよく任される、ということが見えてきてアナウンサーという職業に興味を持ちました。それがきっかけでアナウンサースクールに通い、就職活動も本気で取り組みました。
――実際の就職活動はどうでしたか?
厳しかったです。書類選考がなかなか通らず、悩む日々が続きました。エントリーシートを何度も書き直し、写真の映りが悪いのでは?と1週間お味噌汁だけで過ごしたこともあります。でも結果は不合格。落ちるたびに、自己肯定感が削られていきました。最後は疲れ切ってしまい、3年生の12月にはアナウンサー就活をやめたんです。
社会に出て感じた、自らの成長

――その後、何か転機があったのでしょうか。
気持ちの切り替えは難しかったです。周囲は内定している人ばかりで、自分だけ取り残されている気がして、「何かしなきゃ」と思い就活を再開しました。その時に目にしたのが、ある新聞社のデジタル職でした。紙離れが進んでいる中で、デジタルの力でどうにかしようというところにイノベーションを感じたんです。
以前は書類選考すら通らなかったのに、一次、二次、三次と順調に進み、最終面接まで受けたんですが、1ヶ月待たされた末に落ちてしまいました。ただ、「デジタルの世界って面白い」と、IT分野の仕事に対する興味が強くなっていたんです。最新の技術を使い、良いものを届ける工夫をするところに魅力を感じました。
――CACを選んだのは、なぜでしょうか。
会社説明会も面接でも、とにかくみなさん明るくて楽しそうで、数社のSIerを受けましたが「他の会社とは違う!」と。この会社なら、楽しく働けそうと思いました。実際に入社してみても、印象は変わりません。同期が約120人いますが、みんなおしゃべり好きで活気があって、研修中には人事の方から「静かにするように」と学生のように注意されていたほどです(苦笑)。
文系出身ですが、不安はありませんでした。就活中の悩みに、「自分がやりたいと思えないと、本当に頑張れない」ということがありました。ですが、CACが目指すものとして、デジタルの力を活用して世の中の課題を解決するということが新鮮に響いて、「やりたい」と思えることを見つけた時点で、不安はなくなっていたのだと思います。
――挫折も経験した就職活動でしたが、そこから得たことはありますか?
学生時代を通して思うのは、「コロナ禍だから仕方がない」と言ってしまえばそれまでですが、「あのときもっと頑張っていればよかった」ということです。留学も断念しましたし、学部での勉強も入学前に思っていたものと違い、あまり積極的に取り組めませんでした。だからこそ、社会人になってからは、「未来の自分が振り返ったときに後悔しないようにしよう」と思っています。
やりたいことを見つけて、今の仕事に就けましたが、やりたいことでなかったとしても、食らいつけば学べることがあるはずです。学生生活、就職活動を経た今は、もっと柔軟に学ぶ姿勢を持って成長できるという自分への期待が持てました。
「それなりに」との戦い

――配属先は新規事業開発本部です。新卒120人の中で1人ですね。
配属先が決まったときは「なぜ?」という気持ちばかりで、ただただ驚きました。研修で新規事業開発本部という部署があると知ったときから、いつか働きたいと思っていたんです。ただ、当時の社長とお話する機会があり、新規事業開発本部へ行きたいとお話したところ、「まずは経験を積まないと」と言われました。その通りだと思っていたので、配属決定には余計に驚いてしまいました。
――「いつかは」と希望していた部署での仕事はいかがですか。
入社した頃は、正直に言えば「のんびり楽しく働こう」といった気持ちでした。でも、新規事業開発本部への配属が決まったとき、「1人だけの配属」という事実に、期待されているのかもしれないと思い、気持ちが切り替わりました。今回の配属は、会社にとってはある意味で“投資”です。会社に利益をもたらす人間に成長してほしいというメッセージと受け止めて、利益を生み出せるビジネスパーソンになることが自分の役割だと感じています。
そんなかっこいいことを考えていますが、実際にはわからないことだらけで、必死にやっているというのが本音です。日々、新しいことに触れている感覚で、自分がやっている仕事が、どれだけ重要なのかまでは考えが至らない部分もあります。
――仕事をしていて、自分の課題と思うことはありますか。
例えば、お客様へDMを送るというタスクがあります。単にDMを送るという作業は慣れればこなせる仕事ですが、本来、求められるのはKPIを設定して、効果測定を行い、PDCAを回していくなど、工夫次第でいくらでも改善できるはずです。一方で、忙しいことを理由に、それなりにこなしてしまうこともあります。今の課題としては、「それなりにやる」ということを無くすことです。そのためにも、同時進行で進んでいくいくつもの業務に対して、「今、自分が何をしているのか?」という俯瞰的な視点を持つことを意識したいと思っています。
技術を理解し、活用できる人材を目指す

――現在の仕事について教えてください。
音声感情解析AI「Empath」のマーケティングを担当しています。感情解析技術は、少しニッチな領域のAIです。音響の特徴から感情を解析する技術で、テキストの内容には一切依存しません。ただし、人間でさえ音響特徴だけで感情を判断できる確率は60から90%と言われており、とても難しい分野でもあります。
難しい分野ではありますが、これから先、AIが発展していくにあたり、より人間らしいコミュニケーションを実現するためには、感情解析は不可欠な技術だと考えています。この分野の今後の可能性は大きいと思っています。
――マーケティングを担当していて苦労することはなんでしょう。
まず新規事業の難しさを改めて感じています。私たちの技術を使って、お客様が求めるものをいかに最適な形で、コストを抑えつつ無駄なく提供できるか。本当に難しいと実感しました。お客様からは、「こういう機能はないの?」とシンプルに言われますが、実現にはさまざまな技術的課題があります。どう工夫して乗り越えるかが、新規事業の本質ではないかと思います。
私自身、お客様の疑問について素直に「どうしてこの機能がないんだろう?」と思っていました。技術を統括する方に相談すると、ホワイトボードを使いながら、これまでの経緯と技術的な難しさといったことを丁寧に教えてくれます。仕事を通して、自分の理解が深まっていくので、本当に学びの多い環境です。
――スキルアップのために、何かされていることはありますか?
データサイエンスの勉強を個人的に始めています。当初は、AIの知識を持つことで、お客様と技術との橋渡しをするような、コンサルができる人材になりたいという思いがありました。今もそう思うのですが、AIがどんどん進化するなかで、単純なプログラミングスキルでは通用しない時代になってきていると感じます。ですから、データサイエンスを勉強することで、技術を理解した上で適切に活用できる人材を目指すべきだと思っています。
マーケティングの仕事は、とても意義があると感じています。技術に偏りすぎてもいけないし、エンドユーザーの視点だけでも十分ではありません。両者を理解し、最適な形で結びつけることが重要だと思っています。
価値を生み出すことを常に考える立場

――柳原さんの「現在地」について、お聞かせください。
いろいろ考えたのですが、私は、今この瞬間にも価値を生み出そうと試行錯誤している場所にいると思います。以前は、利益を生み出せる人になるための訓練期間とか、新規事業開発本部の一員となるための準備期間と考えていましたが、今は違うと感じています。私は入社2年目ですが、すでに「価値を生み出さなければいけない立場」だと思っています。成果が出せているかは別として、常に「価値を生み出すこと」を意識しています。
もちろん甘えたくなる気持ちがないわけではありません。でも、私は絶対に後悔したくないんです。できる限りのことをやった上での後悔と、「もっとやれたのに」と思う後悔はまったく違いますから。
――新規事業のことも含めて、今後のことをお聞かせください。
1年後に自分が何をしているかわかりませんし、事業が存続しているかもわかりません。ポジティブなストーリーとしては、今の事業が成功して、メンバーが増えて、「あの時は大変だったよね」と笑い合える未来です。
ただ、もし違った未来だったとしても、就活のように1人の戦いではなく、今はチームの仲間がいます。単にチームがいるかいないかではなく、みんなが後悔なく一所懸命に頑張っているかが大事です。新規事業の環境では、全員が今できることを精一杯やっていますし、そういう姿を見ていると「後悔はない」と思えます。

▼「わたしのセーブポイント」
目指すべき道を進むとき、何かにつまずいたり、進むべき方向を見失ったりすることは誰にもあります。そんなとき、ふと大切にしている思いや、ありのままの自分に立ち返ることができる何か。そんな“セーブポイント”について、教えてもらいます。
聖書の言葉に「なすべきことはただ一つ、後ろのものを忘れ、前のものに全身を向けつつ、神がキリスト・イエスによって上に召して、お与えになる賞を得るために、目標を目指してひたすら走ることです」というものがあります。
ごく簡単に言えば、「過去にとらわれず、前を向いて目標に向かって進み続ける」ということです。本来的には宗教的な意味合いもありますが、私は人生全般に当てはまると思っています。
ちょうど就職活動で疲弊して、後悔ばかりしているときに触れた言葉だったので、すごく響きました。人はどうしても過去のことを考えてしまいますが、私は意識的に前を向くようにしています。ネガティブなことを考え続けると、どんどん気持ちが沈んでしまうので、忘れることを自分に言い聞かせることが大事かなと。ただ、気にしないって簡単なようで、実はすごく難しいことです。でも、この言葉があると上手に切り替えられるんです。
