「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
Photo by 田村 秀夫

新たなテクノロジーを実用化するとき、開発する作り手や導入するユーザーの多くは、まず日常業務の合間に時間を捻出して試行を始めます。自らリスクを取ってリソースを投じる決断は、課題解決への強い思いや、かなえたい明確なビジョン、さらに成功への直感や、目標を共にする仲間があってのものでしょう。

いま注目を集める生成AIでも、そうした事情は変わらないようです。今回は、ITサービスを提供する通常業務のかたわら、新機軸となる文書自動生成サービス「Narrative Gen」を立ち上げた永田直樹(株式会社シーエーシー エンタープライズサービス統括本部 医薬サービス部 副部長)と、開発責任者を務めた梶野学(同本部 エンタープライズP&S部)にインタビュー。リリースまでの足跡と、共に挑戦した相手に対する思いを聞きました。

>> ナラティブ自動生成ツール『Narrative Gen』プロダクトサイト

永田 直樹(ナガタ ナオキ)
エンタープライズサービス統括本部 医薬サービス部
IT業界に24年従事し、株式会社シーエーシーには2006年より在籍。製薬業界を中心とした運用サービス・新規サービスの立ち上げに注力し、RPA推進やニアショア移管など多くのプロジェクトを成功に導く。現在は医療サービス部門の副部長として、Narrative Gen ナラティブ自動生成ツールやITコンシェルジュサービスのプロダクトオーナーを務める。
梶野 学(カジノ マナブ)
エンタープライズサービス統括本部 エンタープライズP&S部
株式会社シーエーシーに2008年度新卒として入社し、IT業界で16年のキャリアを持つ。主に製薬業界向けのシステム開発・運用を手がけ、会計、物流、営業システムからマスタ基盤構築まで幅広い分野で実績を重ねてきた。近年では、クラウド技術やAI開発、新規プロダクトの立ち上げに注力。部門を横断したプロジェクト参画を通じて、先端技術の導入やサービス化に貢献している。現在は「Narrative Gen ナラティブ自動生成ツール」のプロダクト開発責任者。

目次

  1. 「仕事の参考」を超えた「コア技術」への挑戦
  2. 「ここまでできるんだ」。ユーザーの反応で製品化を確信
  3. まず試すビジネスサイドと、初めからNOと言わない開発の信頼関係
  4. 成果が語る? 自ら語る?

「仕事の参考」を超えた「コア技術」への挑戦

「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
Photo by 田村 秀夫

−永田さんはエンジニア経験もあるIT業界25年目のベテランで、現在は製薬業界のシステム運用業務、さらに生成AIを活用したビジネスの立案から確立までの責任者をご担当と聞きました(関連記事)。
梶野さんからも、自己紹介をお願いできますか。

梶野:私は新卒でCACに入社して17年目ですが、この間ずっと製薬業界向けシステムの導入・開発といった技術サイドに携わってきました。直近ではクラウドや生成AIなどの導入プロジェクトで、技術面または全体の責任者を務めています。

以前から永田さんと面識があったのは、ともに製薬業界向けの仕事が多かったためですが、近年は新しい技術を採り入れる際に担当顧客の垣根を超えて協力する場面が増えました。また、全社横断的なプロジェクトに加わることも多くなっています。

−生成AIを使った新サービスの立ち上げにあたって、永田さんと梶野さんが合流した経緯をお聞かせください。

永田:従来からあるIT運用のビジネスに加えて、生成AIで何かユーザーの実務に貢献できるサービスを立ち上げたいと考えていた私は、お付き合いが長い製薬業界との対話の中からNarrative Genのアイデアをつかみ、プロダクトオーナーとしてリリースを目指す開発プロジェクトを2024年初めに立ち上げました。

まずエンジニア1人と、生成AIに詳しい社外の有識者に入ってもらいチームを組んだのですが、この体制では私も含め、開発中に求められる全ての技術知識をカバーしきれず、また試行を繰り返しながら質を高めていくアジャイル開発のマネジメントができるリーダーも不在でした。

そこで「誰か開発のエキスパートを」と思ったとき、真っ先に浮かんだ梶野さんに私からオファーして加わってもらったという流れです。

「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
Photo by 田村 秀夫

−誘われた梶野さんが引き受けたのは、何が決め手でしたか。

梶野:「実際の業務に生成AIを組み込む」という、チャレンジングなテーマに惹かれたのが大きかったです。

それまで僕自身、生成AIを調べ物などに使っていましたが、出力結果の品質や正確性については「50~60点程度」という印象で、「個人で仕事の参考とするならともかく、そのまま業務には使えない」と感じていました。一方で、生成AIに処理させたい内容を細かく整理し、的確な指示を出せば、基幹業務を担うプロダクトのコア技術として組み込むこともできそうな予感はしていました。

実際に現場で使えるだけの正確性やセキュリティが本当に確保できるか、これはやってみなければ分かりません。途中から入る開発チームを引っ張っていけるか不安はあったものの、結局興味のほうが上回り、自身の業務時間から何割かを充てて加わることに決めました。

「ここまでできるんだ」。ユーザーの反応で製品化を確信

「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
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−Narrative Genは参照元の情報を集約し、所定のフォーマットに沿った文書を自動生成できるそうですが、生成AIの回答は一定でなく、事実と異なる “嘘”が混ざる(ハルシネーション)とも言われています。この点にどう対策したのでしょうか。

梶野:生成AIは、一度指示しただけでは“50点”の結果しか得られないときでも、指示内容をいくつかの簡単なプロセスに分解し、順番に処理させると最終的な結果の質が高まります。処理そのものだけでなくチェックもできるので、「ミスが見つかったらやり直すように」といった指示を加えれば、 “合格点”が安定的に出せるようになってきます。

Narrative Genは、こうした指示(プロンプト)を工夫し、かなり細かい設定でハルシネーションを排除しています。具体的には、元となる情報だけでなく、生成すべき文書のひな形や、それに沿った“お手本”の文書を読み込ませた上で、生成後の文書が「元情報と矛盾しないか」「お手本の書きぶりにならっているか」をセルフチェックさせ、クリアできるまで再試行を指示しています。

−「やってみなければ分からない」状態からスタートし、「物になる」と確信したのはいつですか。

梶野:開発開始から4カ月目、製薬会社の方に試用いただいて「ここまでできるんだ」という感想が得られたときです。

まだ100点満点の出来ではなかったですが、これで世に出せそうだという確証は得られたので、さらなるチューニングに並行して製品としてのドキュメント整備などを進め、その3カ月後のリリースに至りました。

永田:開発スピードは当初見込んでいたよりもかなり早く、着手から2カ月ほどで設計の大枠が形になり、操作画面で動かせるようになりました。生成される内容もこの時点で想定を上回っており、その後は精度の追い込みに集中できました。

試行の結果をすぐ確認し、次の改善につなげられるアジャイル開発は生成AIとの相性が非常に良く、今回のプロジェクトにとどまらない可能性を感じています。

まず試すビジネスサイドと、初めからNOと言わない開発の信頼関係

「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
Photo by 田村 秀夫

−大枠の完成まで2カ月・リリースまで半年という短期開発を実際にどう進めたのですか。

永田:クラウド上で動く製品の開発ということもあって、メンバーは全員、ほぼフルリモートで開発を進められました。毎週の会議で全員とコミュニケーションを取り、進捗や目標を確認するのと並行して、私と梶野さんでマネジメント会議を頻繁に開き、全体的な立場から私がお願いをしたり、逆に梶野さんからは開発の方針を示してもらったりといった調整をしていました。

開発期間中に一度だけ、別件の訪問先で偶然会ったのを除くと、梶野さんとは重要な内容も含めて終始オンラインのやり取りでした。とはいえ、お互い言いたいことが言えるだけの経験と責任を持ち合わせていたので、これが最も生産的なやり方だったと思います。

梶野:同感です。メンバー全員が毎日出社して顔を合わすより明らかに効率的だったので、今後はこうしたプロジェクトの進め方がスタンダードになると思います。

−マネジメントのお二人で、お互い相手に助けられたと感じたのは、どんな点でしたか。

永田 私からはやはり、専門分野としてお願いした開発マネジメントです。流動的なアジャイル開発の中で、梶野さんはその都度「何を目指すか」というイメージをはっきり示してくれる上、何か問題が生じたときの対処と進め方が上手。プロジェクト全体を管理する立場からは迷いがなくなり、本当に助かりました。

「最初からNOと言わない」のが梶野さんです。私は割と気軽に「これ、できるの?」と突拍子もないことを尋ねてしまうのですが、すぐ調べて、必ずレスポンスを返してくれる。できるかどうか尋ねた次の日、もう出来上がっていたこともありましたね。

梶野:何のことか、すぐ思い当たらないのですが(笑)、たぶん永田さんが求めたのと近いものを、僕も作ろうと思っていたときの話だと思います。今回は「こういう製品を出す」という目標が最初から明確だったので、アジャイルで走りながらも、二人が考える内容は共通していたような気がします。

僕から見た永田さんは「成功する確証がなくても、まず試してみる」という頼もしさがある人。できるだけ新しいことにチャレンジしたい僕にとって、一緒に働きやすいマネージャーです。

成果が語る? 自ら語る?

「コンビをチームに」。生成AIプロダクトの開拓者たちが見据える夢
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−お二人とも経験豊富でありつつ新たなチャレンジにも意欲的なので、息が合ってスムーズに開発が進んだということでしょうか。

永田:そうかもしれません。特定のお客様と継続的な関係を築いていくIT運用のようなビジネスのかたわら、生成AIのような新規性の高いプロジェクトにも進んで手を挙げる私たちは、社内でもやや珍しいタイプだと思います。

その意味で今回、他業務もあるメンバーが持ち寄ったリソースでNarrative Genが無事リリースまでたどり着けたこと、また生成AIを採り入れた製品開発の先例ができ、これから社内でチャレンジする他のチームの負担感を減らせた意義は大きいと感じています。

梶野:既存ユーザーとの長期的なビジネスが主体となる私たちSIerが、同時に生成AIのような新規開発にも取り組むのは、大変な面も確かにあります。

それでも「ユーザーの業務やシステムの構造をあらかじめ理解しており、直接ヒアリングしやすい関係性もできている」という立ち位置を考えると、AI特化のスタートアップなどとは異なる優位性が発揮できるようにも思います。

−Narrative Genは、現在試用中のユーザーから間もなく導入第一号が誕生するとのことですが、さらに新たな展開も生まれているそうですね。

梶野:はい。Narrative Genの機能をそのまま横展開するというよりは、開発の中で得られたノウハウ、例えば「人が知りたい情報をAIに答えさせる方法」「生成AIが的確に答えやすくなるデータの与え方」などを、さまざまな用途で応用していきたいと考えています。

既に進めている具体的なプロジェクトとして、「ソーシャルメディアの投稿内容のAI分析」や「チャットボットの回答精度向上に向けた、AIによる情報整理」などを担当しています。

永田: お客様との会話の中での気づきから、ITで実現できそうな機能を膨らませた私が持ち帰ってくる話を、梶野さんなら受け止めてくれると安心しています。実は困っているのかも知れませんが・・・。(笑)

梶野:あらかじめアウトプットを予測しづらい生成AIでソリューションを形にするのは挑戦しがいがありますし、「膨らんだ話をどうにか実現する方法」を考えるのは僕自身、苦じゃないというか好きなので歓迎しています。

−とてもいいコンビです。最後に今後に向けて、もし相手に望むことがあったらお聞かせください。

梶野:要望は特にないのですが、あえて言うなら、私たちだけで活動する「コンビ」で終わりたくない。生成AIに取り組む「チーム」を育てていきたいという思いがあります。

私はもともと「出した成果で判断してもらいたい」「聞かれたことには答える」というタイプで、積極的な自己PRは苦手です。特に頼まれなければイベントへの登壇などもしてこなかったので、できればアピールは、得意な永田さんに任せたいですね。

永田:それがもったいないと私は思います。梶野さんは、これから本格化していく生成AIの応用を技術面でリードできる人。要望というより感想ですが、もう少し露出してリーダーシップをアピールしてもよいはず。まさにこのインタビューが出発点になると期待しています。

−これを読んだ人のリアクションが、AI開発のチームを育てるきっかけになればと思います。今回はお忙しいところ、ありがとうございました。

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