M&A・アライアンス戦略部長インタビュー

株式会社シーエーシー(以下、CAC)は、M&Aを事業拡大や新規分野進出の有力な手段として位置付けている。CACグループの母体である株式会社コンピュータアプリケーションズは1966年に設立され、ソフトウェア産業の拡大と共に成長。1994年には、創業期に設立・出資した3社を合併し、株式会社シーエーシーを発足した。2000年以降はIT企業やCRO企業を子会社化するのみならず、海外のIT企業も含めた積極的なM&Aにより成長を遂げている。

現在のCACは、どのような戦略の下でM&Aを手掛けているのか。M&A・アライアンス戦略部長の大野光央に、その戦略と実践、そして今後の展望について聞いた。

大野光央(おおの・みつお)
新規事業開発本部 副本部長兼M&A・アライアンス戦略部 部長
1999年に株式会社シーエーシーに入社後、金融機関向けのシステム開発に携わり、要件定義から開発・テストの開発工程を担って数多くのプロジェクトを成功に導く。2013年からは中国の上海に赴任して、現地日系企業を中心にITサービスの構築・導入や自社新サービスの開発を推進。帰任後は金融系ソリューション企画・開発に従事し、現在は新規事業開発本部で新規事業領域のM&A・出資部門をリードする。

――これまでの経歴についてお聞かせください。

大野 1999年に新卒でCACに入社し、金融機関の情報システムを開発するプロジェクトを数多く経験してきました。プログラム開発に始まり、徐々に設計や要件定義などを経験し、20代後半からはプロジェクトマネジメントに従事するようになりました。

2013年からの5年間は中国の上海に赴任して、最初の1年間はITコンサルタントとしてシステム企画やシステム導入・運用支援を行い、その後の4年間は営業を担当しました。当時、中国ではものすごい勢いでITが社会実装されており、失敗を恐れず、スピード感を持って事業化を進めていく様子を目のあたりにして、大変驚いた記憶があります。中国からの帰任後は日本で金融系のソリューション企画・開発に従事し、2022年に新規事業開発本部が発足したのと同時に同本部に異動しました。

――当時から現在のようなキャリアを思い描いていたのですか。

大野 入社当時はスーパープログラマーを目指していました。ただCACの開発現場にいる周囲の方々の技術レベルが高く、その道を極めるのは難しいなと(笑)。そう思っていたタイミングでプロジェクト・マネージャーを任されるようになり、徐々にプロジェクトをリードする立場に身を置くようになりました。

――M&Aに携わるようになったきっかけを教えてください。

大野 2022年に部署異動して当初は新規事業開発に携わっていました。ただ、新規事業の立ち上げのみで事業拡大や新規分野進出を図るのには限界があるのでは、という意見もあり、私自身もそうした考えを持つようになりました。

そんな中で、新規事業開発本部長の中西(英介)からM&Aを担当してみないかという話があり、その年の10月からM&Aに携わるようになりました。扱う金額の規模が大きく、自分に判断できるのかという不安もありましたが、今まで経験したことがないチャレンジでしたし、何より面白そうだと思ったことが挑戦を決めた一番の動機でした。

>>中西英介 新規事業開発本部長インタビュー「独立系SIerの新たな挑戦 新規事業を生み出す創造的な組織マネジメントとは」

――大野さんのどのような部分を期待され、M&Aの担当者を任されたと考えていますか。

大野 CACの社員は比較的、同じ業界の同じプロジェクト、同じお客さまを相手に仕事を続けることが多いのですが、私はさまざまなプロジェクトに携わるなかでお客さまの個別業務に対応し、海外勤務も経験するなど、数多くの領域をローテーションしたキャリアを持っています。そのため、M&Aは全くの新しい領域、取り組みですが、柔軟に対応できるのではないかと思ってもらっていたのかなと思います。

――M&Aチームにはどのようなメンバーが在籍しているのでしょうか。

大野 私以外に4人のメンバーがいます。それぞれ新規事業開発、財務戦略、M&Aアドバイザリーなどの領域で専門性を持っていて、お互いの強みを活かしながら案件を推進しています。

私と同じ新規事業開発本部の所属で事業開発を推進している者と、企業再生ファームに関わった経験があって、現在はCACグループ全体の財務戦略に携わり、ファンド出資戦略やマイノリティー出資、M&A案件の財務分析を担当している者。それとこの4月から新たに加わった、もともと証券会社でM&A関連の業務に従事していた者、あともう1人、外部アドバイザーとして、大手企業のIPOやM&Aに関わった者の5人でチームを組んでいます。

――M&A事業においてどのようなところにやりがいを感じていますか。

大野 さまざまな会社の方々と出会えることですね。M&Aはソーシング(条件に合う相手候補を探し、交渉を進めるプロセス)が重要になりますが、その間はいろいろな方とお会いして話をさせていただくことで、気付きや知見を得ることができます。スタートアップ企業の方やファンドの方、事業会社の中で新規事業に取り組まれている方などと接点を持ち、情報交換をするのは非常に刺激的ですし、さまざまな会社の事業モデルや事業計画、ミッションやバリューなどを、企業概要書を通じて見ることで知的好奇心も満たされます。

――M&Aの相手先として、どのような企業に注目しているのでしょうか。

大野 M&A事業を進めている理由の1つは売上のトップラインを上げるためで、社内で中長期的にゼロイチの事業をいくつも推進することと並行して、短期で売上を作ることも視野に入れているため、トップラインやトラクションなどが一定規模で獲得できており、CACグループに加わることで更なる成長が期待できる企業に注目しています。

とはいえ、シードのスタートアップは全く視野に入れていないかというと、そういうわけではありません。CACと一緒に事業成長する姿を描けるのであれば対象は幅広く柔軟に検討したいと考えています。

――最近のM&A事例として、2024年3月に株式取得したシー・アイ・エム総合研究所(以下、CIM総研)について教えてください。

大野 CIM総研は製造業向けソリューション強化の一環として着目した企業で、今回のM&Aは、自チームで一からソーシングしてクロージングまで持って行った最初の案件でした。

CACは金融や医薬などの分野に強みを持っていますが、製造業を第三の柱にしていきたいという狙いがあります。CIM総研をグループに迎え入れることで、CACが製造業に切り込んでいく足がかりになるのではないかと考えました。CIM総研がグループインしてから半年ほど経過しましたが、実際、営業連携や製品開発などさまざまな面で期待通りの実績が出始めています。

M&Aの流れとしては、競合他社との入札を経て、売り手やCIM総研に対してCACグループのビジョンや戦略、CIM総研と一緒に成し遂げたい事などを説明・提案しました。その後のデューデリジェンス(DD/売り手企業の事業や財務状況、リスクなどを詳細に調査すること)では同社の事業内容や財務状況、技術力などを精査し、PMI(買収後統合)を見据えて経営陣とも積極的に対話を重ねました。

契約交渉では、譲渡価格や保証内容、クロージング条件などが焦点となりましたが、売り手側と交渉を重ねることで最終的に合意することができました。

>>個別受注生産に特化した生産管理システムを提供する株式会社シー・アイ・エム総合研究所の株式取得(子会社化)のお知らせ

――M&Aを実施する際はどんなところに特に留意していますか。

大野 買収する側は、DDを実施していることもあって相手企業のことを理解しているつもりです。ただし、買収される側は、M&Aプロセスに関わった一部の経営陣の方々を除き、従業員の方たちはクロージング段階で突然、「CACが株主になります」と伝えられるため、自分たちの働き方や処遇などの面で心理的に不安な部分が非常に大きいと思います。

そのため、CIM総研のときもそうだったのですが、社員の方たちの心理的安全性を確保することを重視しました。「CACは皆さんの雇用や今の働く環境を十分に尊重した上で、株主として二人三脚でCIM総研の経営・事業に参画します」というメッセージを届けました。

また、普段から気をつけていることとして、株主だからといって上から目線で接するのではなく、対等な立場で会話をするように心掛けています。

――そうした心掛けをしながらも、難しさを感じる部分はあると思います。

大野 そうですね。CIM総研のCACグループイン直後、コミュケーションの面では多少の壁を感じることがありました。CIM総研の皆さんにとって、CACは突然来た株主であり、その壁をすぐに取り除けないのは当然のことだと思います。

しかし、私としては本当に何でも相談してもらいたかったですし、CACのリソースを活用することで自分たちの事業をより大きくできる、といった積極的な提案を期待していました。また、社長の西森(良太)からも、CIM総研の皆さんには「CACで利用できるものは何でも利用してほしい」とお伝するなど、CIM総研からCACに相談できる雰囲気を作ってきました。

CACグループインして半年が経過した現在は、AI開発や顧客紹介、展示会出展のみならず、社内イベントなども通じて、CIM総研とCAC間の相互連携が活発に行われており、当初想定以上の事業シナジーが創出されるのではと期待しています。

――CIM総研との間で、今後どのような事業が展開されていくことを期待していますか。

大野 CIM総研は製造業向けの生産管理システムを持っており、「金型製造業向け個別受注生産管理システム」の導入シェアナンバーワンという実績があります。

確固とした顧客基盤があり、大手の製造業のお客さまとも取引があって、解約率も低く、今後も安定的に事業を運営できると思っています。一方で、SI(システムインテグレーション)やAI開発には手が回っていない部分がありました。

そこはCACが強みとするところですし、DDの段階で、CIM総研が持っている『Dr.工程』というパッケージの周りにシステム開発の領域が数多くあることは分かっていたので、そこにCACのリソースを投下していくイメージが描けています。

また、M&A成立後の2024年6月には個別受注生産向けプロジェクト管理システム『Dr.工程Navi』をリリースしましたが、こうした製品もまだまだAIを活用しきれていない部分があります。我々はCIM総研の『Dr.工程』シリーズとCACのAI開発力を組み合わせていけば、製造業向けに新しい価値を提供できるのではないかと考えています。

CIM総研は『Dr.工程』をはじめさまざまなプロダクトを展開
CIM総研は『Dr.工程』をはじめさまざまなプロダクトを展開

>>株式会社シー・アイ・エム総合研究所が治具/金型から大型設備の製造現場で活用できるプロジェクト管理システム「Dr.工程Navi」をリリース

――CACにとって、M&Aにはどのような意味・意義があると考えていますか。

大野 M&Aを取り組む意義はいくつかありますが、他種多様なバックグラウンドを持つ人材をCACグループに招き入れることができるのは大きな意味があると思います。もともとグループ内にいる人間だけだと、思考プロセスやマインド、視点などが、どうしても同じような方向になってしまいます。

CACグループに異なる視点を持つ方々がジョインしてくるといろいろな考え方や観点が生まれ、グループをさらに強くすることができると思います。単純にトップラインを積み上げる以外に、そういうメリットもあると感じています。

――譲渡企業側に対しては、CACグループに入ることでどのようなメリットを提供できると考えていますか。

大野 グループインした企業に提供できるアセットが3つあると考えており、まずはAIの開発ができること。そして、プロダクトを作り上げるのに苦労されている企業に対しては、CACが持つ潤沢な開発リソースや、お客さまにいろいろな技術を提供してきた知見を活かして事業のサポートができると思います。

また、CACは顧客基盤がしっかりしています。金融系や医薬系などのお客さまと取引していますが、東証プライム上場企業が多く、そういった大手のお客さまを紹介できることは譲渡企業側のメリットだと思います。AI、SI、顧客基盤というこの3つのアセットを提供できることは、トップ面談などでもお伝えしています。

――今後のM&A戦略についてお聞かせください。

大野 M&Aは、CACの新規事業獲得と売上拡大に欠かせない戦略です。社内ではゼロイチで作っている新規事業が数多くあり、それぞれの事業オーナーが事業拡大にチャレンジしていますが、それらの芽が出て、大きな利益が出始めるまでにはもう少し時間がかかると思います。その間にトップラインを積み上げることができるのがM&Aだと思いますし、新しい人材や事業領域の獲得など、さまざまな観点で事業貢献していきたいと思っています。

まずはCIM総研のPMIを着実に進める一方で、引き続き新規案件の探索にも注力していきます。M&Aは運やタイミング、企業同士の相性などが影響するので、よく恋愛や結婚にたとえられます。理想的な相手が現れないとM&Aができず、その相手を探し求めることが1つのミッションだと思いますし、特に先進的な事業・技術・人材を有する企業へのアプローチを強化し、当社および譲渡企業の成長を加速させていきたいと考えています。