株式会社シーエーシー(以下、CAC)が長崎に拠点を置く養殖業者の協力のもと新規事業として推進している養殖業向け金融サービス『FairLenz(フェアレンズ)』。AIを用いて生け簀(いけす/魚などを一定期間、水中に飼っておく場所)の中にいる魚の数や体長を検知し、その魚たちの担保としての価値を算出することで金融機関から動産担保融資(※)を引き出すサービスだ。
(※)企業が保有している在庫や売掛金など流動性の高い資産を担保として活用する資金調達の方法。ABL(Asset Based Lending)とも呼ぶ。
『FairLenz』のプロダクトオーナーを務める井場辰彦と、エンジニアとして開発を任されている鎌田知優の対談を通じて浮かび上がったのは、新規事業へのやりがいと、立ち上げから得られた達成感、そしてマネージャとメンバーのコミュニケーションの重要性だった。
2000年に株式会社シーエーシーに入社後、金融機関向けのシステム開発に携わり、2006年よりシステム開発に関わる新規技術の獲得・導入支援に従事する。2014年からは金融分野において新規技術を活用した新規サービスを推進。2022年に新規事業開発本部に異動し、養殖業向け金融サービス『FairLenz』のプロダクトオーナーとして事業開発をリードする。
大学卒業後、IT企業でカスタマーサポートの経験を積み、2022年に株式会社シーエーシーに入社。金融機関向けのシステム開発に従事し、2023年からは養殖業向け金融サービス『FairLenz』の開発メンバーを務める。
――まずはそれぞれの経歴を教えてください。
井場 2000年にCACに入社し、金融系の業務システムの開発や開発技術の調査、金融系の新規サービスの立ち上げなどを担当してきました。2022年から新規事業開発本部に所属し、『FairLenz』のプロダクトオーナーとして先頭に立って事業を推進しています。
鎌田 大学卒業後、ネットワークセキュリティ製品を販売している会社のカスタマーサポートを担当し、その経験に加えてソフトウェアにも興味を持っていたこともあり、2022年にCACに転職しました。入社当初は金融系のプロジェクトに携わっていましたが、1年くらい経ったタイミングで複数のプロジェクトを担当してみないかと声をかけていただき、今はこの『FairLenz』ともう1つのプロジェクトを担当しています。
どちらのプロジェクトもシステムの基盤となるインフラ周り、アプリケーションを動かす環境の整備を行っています。例えば、AWS(Amazon Web Services/アマゾンが提供しているクラウドサービス)上でアプリケーションのログを監視したり、今後の運用方針を考えて提案したりもしています。
――同じプロジェクトで一緒に仕事をしてみて、井場さんから見た鎌田さんはどのような人でしょうか。
井場 当社は、アプリを開発する人とインフラを開発する人に分かれていることが割と多いんです。鎌田さんは、どちらの開発もできる人なので、会社からも評価されていますし、期待の人材だと思っています。
鎌田 ははは、頑張ります(笑)。
――反対に鎌田さんから見て、井場さんはどのような人ですか。
鎌田 マネージャに面と向かって言うのはプレッシャーがありますね(笑)。井場さんのアドバイスに助けられながら仕事をしています。仕事を進めていく上でタスクを振られる際も、井場さんの言い方は自然と腑に落ちます。また、困ったことがあって質問をしたときも、レスポンスが早くて助かっています。
井場 昔と比べて、マネージャとチームメンバーの距離感をどのように取ったらいいのかが分かりにくく、言い方にも気をつけないといけない時代なので、どう接したらいいのか悩んでいます。探り探りコミュニケーションを取っているのですが、メンバーが自分の考えを伝えてくれるので、円滑な人間関係を築けています。
鎌田 井場さんを含めていろいろな人が相談に乗ってくれて助かっています。今はリモートワークが多くコミュニケーションが取りづらいところがあるのですが、『FairLenz』のチーム全体のレスポンスが速いのは、井場さんのスタイルが浸透しているからだと思います。
――『FairLenz』に携わってきた中で、達成感があった瞬間はありますか。
井場 2023年の年末に『FairLenz』のMVP版(テスト製品)をリリースしました。タイトなスケジュールでリリースできるのか不安はありましたが、みんながすごく頑張ってくれて予定通りにプレスリリースを発表できたときは、達成感がありました。新規事業はなかなかうまくいかないと世の中で言われている中で、しっかりと形にできてうれしく思います。
鎌田 MVP版のリリースに向けてテストも一生懸命にやっていましたからね。無事にリリースできて本当に良かったです。『FairLenz』は魚を正確に検知する必要があり、AIに魚の特徴を認識させるために、画像に映っている魚に点を打って輪郭を抽出する作業(一般にアノテーションと呼ばれる作業)をし続けていたときは、腕が腱鞘炎になるんじゃないかと思いました(笑)。この作業が終わったときは、「あー終わったー」と解放感がありましたね。
井場 これは撮影した生け簀の何百枚もの画像の中に映っている魚を人間がマウスでなぞって、AIに「魚はこれだよ」と教える作業です。全ての作業が終わったときは、私も「やったぜ」って思いました。
――これまでの開発を振り返り、お互いに「ファインプレー賞」を贈るとしたら、どのような場面でしょうか。
井場 MVP版のリリースに向けてシステムが適切に動くのか、かなりの数のテストを行いました。そこで一番手を動かしたのが鎌田さんだと思います。「このテストをやる必要がある(もしくはない)」「○○さんはこのテスト部分をやってください」といったテストの差配もしてもらいました。おかげさまでテストをスケジュール通りに終えられたことが、私からの「ファインプレー賞」です。
鎌田 ありがとうございます。井場さんの「ファインプレー賞」を選ぶのは難しいんですよね。井場さんの存在自体が「ファインプレー賞」です(笑)。本当にいろいろなことを聞くんですけど、「こうやったらいいんじゃないのか」と的確に答えてくれます。メンバーに対して当然のことなのかもしれませんが、いつもありがたいと思っています。
あと、『FairLenz』のプロジェクトに配属してくださりありがとうございます! それが一番ありがたいことだと思います。
井場 そう言っていただけるのが一番うれしく思います。どんなところが良かったんですか。
鎌田 全く知らなかった漁業に関われることが、今のプロジェクトの一番好きなところです。普段生活をしている中で、漁業についてほとんど興味を持っていませんでした。出張で実際に長崎に足を運んで、一緒に仕事をしている大学の先生とお話する機会をいただけたり、地域に貢献しているという実感を持てたり、漁業について自分自身の知識も増えていくので、とても充実しています。
――一方で、「失敗したな」と思った瞬間はありますか。
井場 これは私の問題なのですが、通常のシステム開発は要件と設計があって、こういうふうに作ってくださいというのが明確です。『FairLenz』は新規事業なので要件や設計をカッチリ決めておらず、「こんな感じで」というお願いの仕方になってしまいました。
「この説明で理解されるかな」と思いながら話をしていたら、あとになって自分の意図と違うものが出てきて、「別の伝え方が良かったな」と反省することが何度かありました。早めに軌道修正ができるように、開発の途中で何度か状況を確認してレビューをすれば良かったなと思います。
鎌田 私も、もう少し詳しく聞けば良かったと思います。最初に「こういうものを作ろう」「では何をどう進めていこう」となったときに、自分の考えだけで仕事を進めるのではなく、ちゃんと聞けば良かったなと反省しています。
井場 仕事の期限までの時間をまるまる使って成果物を作って提出すると、仕事を依頼した側から「これじゃない」って言われることがそこそこあると思います。経験を積んでいくと、仕事の途中結果を少しずつ出していけば、大きな認識のズレにはならないということが分かってきます。誰もが通る道だと思うので、私のほうで細かく確認すれば良かったですね。
――最後に、『FairLenz』に懸ける思いを教えてください。
鎌田 最初に『FairLenz』のプロジェクトに参加したときは、これが周囲にどのように受け入れられるのかが想像できませんでした。そんな中で、実際に長崎に行って生け簀を見て、養殖業や金融機関の方々などと会話を交わして、このプロジェクトに寄せられている期待を感じることができました。
ニュースとして地元のテレビでも取り上げていただいたという期待を考えると、まずはちゃんと成功させたいですし、さらに成功させた上で長崎以外の養殖業にも展開していけるんじゃないかなと感じています。こういった地域貢献に携われることは幸運なことだと思っています。これからも井場さんにご迷惑をおかけすることはあると思うのですが(笑)、頑張っていきます。
井場 やりがいを持ってプロジェクトを推進してもらっているのが一番うれしいです。私は今後、『FairLenz』を多くの人に使っていただけるサービスにしていきたいと思っています。サービスの使い方が複雑で難しく、あまり使われないというのは避けたいんですよね。機能をフルに使ってもらえるように、どんどん使いやすく改良していきたいと思います。
【撮影協力】
長崎ちゃんぽん居酒屋「ふぐぶた酒場」
住所:東京都目黒区上目黒3-32-5
公式サイト:https://fugubutasakaba-nakameguro.owst.jp/
『FairLenz』のPoC(実証実験)で協力いただいている長崎の養殖業者・昌陽水産様、雄昇水産様が所属するたちばな漁協の顧問・永石一成氏がプロデュースを務める、長崎をコンセプトにした居酒屋。「とらふぐ」や「ゆうこうシマアジ」「ゆうこう真鯛」など長崎のこだわり食材が味わえる。全国で7店しかない長崎県「極」認定店。