
開発を担うR&D部門のエンジニアの人物像に迫る企画「エンジニアのヨコガオ」。今回は、2020年に入社した相原光葵が登場します。大学院時代の研究を活かしながらAI開発に取り組み、プライベートでもプログラミングコンペに出場するという、その人物像に迫ります。
2020年に株式会社シーエーシーに新卒で入社後、R&D本部に所属。感情認識AIをはじめ、顔認証AIの開発や、在宅勤務見守りAI「まもりも」のリリースにも携わる。その他、AI-OCRや製造・建設・物流向け各種AIの開発も担当するなど、幅広い分野で開発に取り組む。
先輩から刺激を受けて、キャッチアップする

――大学院時代から機械学習やAIについて研究されていたそうですね。
高校時代から情報系に興味があり、大学でもコンピュータに関することを学びたいと思っていました。大学院で研究室に配属される際、機械学習を専門としていた担当教授の勧めでAIの研究を始めました。
当初、AIは“何でもできる”という印象を持っていました。ところが実際に研究を進めていくに連れて、AIは与えられたデータに基づいて学習するため、その性能はデータの質に大きく依存するのだとわかってきました。だからこそ、データの収集や前処理がとても重要で、AI開発では案外、多くの地道な作業が伴うことも学びました。
――入社後、最初の配属先がR&D本部でしたね。
そうですね。配属が決まる前に部署紹介を見ている中でもR&Dが一番面白そうだと思っていたので、配属が決まったときは素直にうれしかったです。大学の研究室でもヒューマンコンピュータインタラクション(HCI:人とコンピュータの関わりや相互作用を研究する分野)や人間の行動認識といった人に関わることを研究していて、そうした分野の応用にも興味がありました。R&Dはまさに自分が取り組んできたことを活かせそうだと思いました。
ただ、配属されてからしばらくの間は補佐的な業務からはじめて、AI開発に直接関わることはないと思っていました。ところが、AI研修がひと通り終わると、「じゃあ、AI開発やろうか」ということで実務としてAI開発をすることになったんです。「いきなりくるんだ!」と驚きましたが、考えてみると私が入社した2020年頃は、まだ世の中的にもAI開発自体が新しい分野でしたので、若手も一緒に開発に加わることを期待されていると感じました。
――それから数年経って、AI分野の進化はとても早くなりました。
AI系の技術は流れが早いので、社内でも毎週、AI関連の技術トレンドを共有するミーティングを行なっています。新しい研究や開発事例について議論して、最新技術のキャッチアップをしています。特に先輩社員が得ている情報は幅が広くて、「すごいな」と刺激になります。それに外国人のスタッフもいるので、海外の研究論文にも触れられるいい機会になっています。

最近では、若手を中心としたAIチームで取りまとめ役をしています。開発の進捗を管理したり、困ったことがあればフォローするのですが、新たに入社したメンバーからも刺激を受けています。彼らの知識やアイデアに、ハッとさせられることも多く、自分ももっと成長しなければと思うこともしばしばです。
「失敗」は決して悪いことではないという学び

――AI開発において、苦労されるのはどのようなことでしょうか。
AI開発は、通常のプログラミングとは違い、コードを書いたらそれで終わりではありません。期待した精度が出ているかが重要であり、精度向上には試行錯誤が必要です。精度が得られないときは、改善方法を模索しなければなりませんが、闇雲に改善を試みても時間ばかりかかってしまうので、仮説を立てて検証します。例えば、誤検出のパターンを分析して、どのようなケースで問題が発生するかを把握して、具体的な改善策を立てるのです。
実際に私がプロジェクトに参加した「顔認証AI」の開発では、登録されたユーザーの顔と現在の顔を照合して、本人確認を行うのですが、ユーザーが異なる環境で使用した際に認識精度が低下する問題がありました。その課題を解決するために、データの増強やアルゴリズムの調整を繰り返して、なんとか改善することができました。
ただ、AI開発に限りませんが、期待した精度が出ないことが「失敗」だとしても、それは悪いことではなく、原因を明確にすることで今後の開発に活かせる学びにもなります。
――開発したAIが実際にサービスとしてリリースされたときの気持ちはいかがですか?
「顔認証AI」の技術を応用したプロダクトに、在宅勤務見守りAI「まもりも」があります。「まもりも」がリリースに至るまでには、クリアすべき課題が多かったのですが、少しずつ精度が上がっていく様子はAIが育っていく過程を見るような楽しさがありました。ようやくお客様に使ってもらえるようになったときには大きな達成感を得られましたし、率直にうれしかったです。
――CACが掲げる「HCTech®︎」というコンセプトについて、ご自身でどう捉えていますか。
これまでのテクノロジーは、人が指示したことに対して、指示通り実行するものが多かったと思います。「HCTech®︎」が目指すのは、AI自身が察して自ら動いてくれるような、自律的に判断して人をサポートしながら、仕事だけでなく友達のような関係を築いて共存していけるような世界だと考えています。
プライベートはコンペとトライアスロン!?

――プライベートでもプログラミングのコンペに出場するそうですね?
学生時代の最後の年からコンペには出ていて、社会人になってからも継続して出場しています。これまで上位に入賞したもので11回、1位になったこともあります。コンペの種類は様々で、テーマによって期間も違います。短いもので数週間、長いものでは3ヶ月以上取り組むこともあります。
――具体的に、どのようなコンペに出場されたのでしょう。
ケーブルのコネクタの種類を判定する技術コンペに出場したことがあります。写真に写っているコネクタがUSB Type-Cなのか、Micro-Bなのかなどを判定する精度を競うもので、約3ヶ月かけて開発しました。
――業務を終えても、コンペに向けたプログラミングをしているわけですね。
そうなりますね(笑)。でも、プログラミングそのものが楽しいですし、業務に活きてくる知見が得られることもあるんです。 例えば、プログラムの精度を上げるためには最新の技術やトレンドを把握しなくてはなりません。実際に自分ではやり尽くしたと思っていても、他の参加者がより高い精度を出してくることがあります。コンペによっては参加者同士でディスカッションする機会もあり、コンペ終了後に解法やソリューションを公開する方もいるので、自分が思いつかなかったやり方を学ぶ機会になっています。 考えてみると、担当している業務に活かせそうなコンペを選んでいるかもしれません。
――とはいえ、プライベートでずっとプログラミングをしているわけではないですよね?
はい、キャンプへ行ったりもしますし、旅行や野球観戦も好きです。大学が福島県だったので、会津若松にはよく行きます。学生時代はトライアスロン部に入っていたので、同級生たちと昔通った会津若松のご飯屋さんへ行ったりするのも楽しいです。
――トライアスロン部だったんですか!
そうなんです。宮城県や新潟県の大会へ出たり、会津でも年に1回、会津大学の周りで開かれる大会があるので出場していました。猪苗代湖を泳いで、そこから大学まで自転車に乗って、最後は大学の周りを走るという大会です。今はトライアスロンは全然やっていないんです(苦笑)。ただ、たまに走ったりはしていて、去年は福島県でフルマラソンを走りました。
――プログラミングされているイメージと違って、驚きました。最後にお聞かせください。エンジニアとして、大切にしていることは何ですか?
1つのことに固執せずに、広い視野を持つことが大切だと思います。業務やコンペでも、自分の考えだけでなく、他の人の発想や手法を取り入れることで、より高いレベルの成果を出せると感じています。新しいことに積極的に挑戦して、学び続けていきたいですね。
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柔らかな語り口ながら、高みを目指す視線が印象的な相原さん。トライアスリートとして培った粘りとタフさ、さらにはコンペで得た知見をこれからの開発にも活かしてくれるのではないでしょうか。

▼技術者が気になる技術
最近はChatGPTをはじめとする言語系の生成AIも気になります。ただ、言語だけでなく、人が見ている景色や画像、さらに音声を組み合わせたマルチモーダルなAIになっていくと、より人に近づいていくのではないかと思っています。そういった分野が、今後どのように発展していくかが非常に気になります。
直近でいいなと思ったのが、GoogleのAIであるGeminiのTVCMです。本当に人とAIが会話をしているようなシーンが描かれていて、数年前までは「本当にそんな世界になるの?」と思っていたことがリアルで実現しています。まるで近未来映画のように、人とAIが同居しているやり取りは、観ていてワクワクしますし面白いと思います。
